Get your life!(2)

□ありがとう、大好きだよ
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第47話 ありがとう、大好きだよ

「…っ」

「大丈夫!?セイラ…」

ベティの問いに大丈夫だよ、と答えるセイラだが、その息は上がっている。
黄昏時、前は見えづらくなってきた。
道なき道を進めば、なおのこと怪我をした足には負担がかかる。

(それでも、行かなくちゃ)

しばらく歩き続けると、山道に突き当たった。どうやらテンガン山へのルートのようだ。
緋雨がボールから飛び出してくる。

「よくやった、セイラ。ここからならもう大丈夫だ。」

その声にビィやジュノ―もボールから飛び出してくる。

「セイラ…」

「おい、死ぬなよ」

セイラは苦笑して、うん、大丈夫、と言った。
追ってくるものは無い、ということに、少しだけ安心はできたが、まだ助けを呼べた訳ではない。

「まだ、進まなくちゃ、ね…」

少しふらついたセイラに、ジュノ―は、おい待てよ、と唸って、セイラの服の裾を咥えた。

「そんなんじゃ歩けないだろ。乗れよ」

でも、とセイラが言うと、

「こっちの方が早いだろ。」
と、顔を向こうにそむけながら言った。
セイラはありがとう、と言って、ジュノ―の背中に乗った。

セイラ達はテンガン山中をクロガネシティ方面へと進んでいく。
緋雨が先導し、ジュノ―が体を運んでくれる。岩などの障害物があればビィがそれを壊し、ベティは周囲の安全を確認した。
皆、途中途中で大丈夫か、と気にかけてくれる。

少し休もう、という緋雨の一声で、岩場の陰で少し休むことになった。

「セイラ、もうちょっとだよ」

そう言いながらビィが体を寄せてくる。撫でてやれば、やわらかい毛並みがここちよく指の間を流れていく。
自分を乗せて疲れたであろうジュノーをねぎらうと、大したことねぇよ、と、照れたように顔をそむけた。ベティはそんなジュノ―をからかい、緋雨がクスクス笑う。
つかの間の休息に見た、「いつもの光景」だった。セイラは一息ついて、自分のポケモンたちを見つめた。

(わたし、ずっと一人のような気持だったけど、)

そうじゃなかった。
こうして、一緒に戦って、守ってくれようとしている仲間がいる。
前に進ませようとしてくれる。
それなのに。

―――わたしはダイゴに会いたいだけなのに…!

さっきはカッコ悪かったな。
自分の事ばかりで。みんなだって不安だったのに。
みんなのこと、守ってあげなくちゃいけないのに、自分が真っ先に泣いてしまうなんて。
それなのに、こうして皆。

一生懸命、頑張ってくれてる。


「みんな…、さっきは取り乱してごめんね」

セイラがそう言うと、皆はこちらを向いた。

「わたし、自分のことばっかりだった」

ベティがそんなこと無いわ、と言ったが、セイラは小さく首を横に振った。

「それでも、みんなこうして頑張ってくれて」

情けない自分が恥ずかしくなってくる。
思えば無茶ばかりしてきて、どれだけこの子たちは心配してきただろう。
この子たちのことを、ちゃんと顧みれていなかった。

「こんなわたしに、つき合わせちゃってごめんね。」

わたし、もっと強くなりたいよ、とこぼすと、また目頭が熱くなってきた。
やだ、またこんな、と慌てて隠そうとすると、ビィが寄ってきて、涙をなめた。

「セイラ」

ビィが言った。

「セイラは、頑張ってるよ」

泣きたくなること、いっぱいあったよね。
怖いことも、びっくりすることもあったね。でもしょうがないよ、ぼくたちまだ安心できる状況じゃないんだもん。
それじゃあ、心が限界になっちゃうこともあるよ。
ボクたちはそれを分かってる。
それでもボクたちは、自分が苦しくても優しさを忘れないキミが好きで、
つい無茶をしちゃうキミをまもりたくって、
キミが安心して笑っていられる場所へキミを連れていきたくて、今こうしてるの。

だから、謝らないで。ボクたちは謝ってほしいわけじゃない。
ただ、キミにしあわせになってほしいだけだよ。

ビィがそう言うと、ベティはそうよ、と言った。

「あたしたちはいつでも傍にいるわ、セイラ」

だから、前に進みましょ。
ギンガ団だか何だか知らないけど、邪魔される筋合いなんてないわよ!
だってセイラは幸せになるんだから!

「だから、早くそのダイゴさんとやらをあたしたちに紹介してよね」

ベティはニコッと笑った。
怨念から生まれた自分が、こんな風に笑えるなんて、とベティは内心驚いた。

ジュノ―は「何言ってんだか」と小さく口ごもり、
「つまんねぇことでメソメソしてんなよ」とぶっきらぼうに言った。

緋雨は非常にばつが悪い顔をして、「俺こそ、すまなかった」と呟いた。

ビィはセイラを見つめた。

「ねぇセイラ、先のことはまだわからないけど、それでも皆、今セイラをクロガネシティに連れていきたい気持ちは一緒だよ。」

だから、気にしないで。前に進もう。

ビィがそう言うと、セイラはビィをぎゅっと抱きしめた。

「みんな…!ホントに、本当にありが、とう…!」

セイラの目から大粒の涙がこぼれた。
こんなに感情が溢れたのは、いつ以来だっただろう。
母様が死んでしまって以来、こんな風に泣いていなかった。
ただ、今のわたしは一人じゃない。
母様の言葉を思い出す。

―――ポケモンと共にありなさい。あなたがポケモンの良さを知らずにいるなんて、わたしは耐えられない。

そうだね、母様。こうして傍にいてくれるなんて、みんな、愛おしいよ。

泣いている自分に、よしよし、とみんなが集まってくれる。
しゃくりあげながら、セイラは続けた。

「みんなのこと、大好きだよ…!」

そう言った時だった。
セイラが抱きしめていたビィの体が輝きだした。

「これは…!」

進化だ、という緋雨の声が遠く聞こえる位の閃光の後、
ビーダルに進化したビィの姿が現れた。

「ボクもセイラのこと、大好きだよ!」

いっしょに強くなろうね、とビィは笑った。



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