Get your life!(2)
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第48話 前へ
そこにいたのは、逞しくなったパートナーの姿。
「ビィ…!」
「えへへ、大きくなったでしょ?」
すごいよ、嬉しい!とセイラの顔が明るくなる。
ベティも、すごいじゃない、おめでとう!とはしゃいだ。
「先越されたが、やるじゃねぇか…!」
ジュノ―は少し悔しそうだが、素直にビィの進化を祝った。
「ありがと!これでキミには余裕で勝てちゃうかもね?」
「ほざけ!簡単には負けねぇよ!」
と笑いあった。緋雨も静かにビィを祝った。
「ビィ、おめでとう。素晴らしいことだ」
「ありがとう、緋雨!」
ビィの声は少し大人びて、言葉に舌ったらずな様子はなくなっていた。
そして、気づいたことをすぐに指摘したくなる癖も。
―――ねぇ、キミはいつ『それ』を手放すの?
前の自分ならそう聞いただろう。緋雨が隠し持っているものが『かわらずのいし』だと気づいていても、もうビィは何も言わなかった。
久々に明るい雰囲気の中に包まれた一行を外巻きに眺めて、
緋雨は、持っていた主人の形見をぎゅっと握りしめた。
(進化、か)
ラルトスからキルリアへ進化したとき、ダンは本当に嬉しそうに破顔して、
自分を抱き上げて、ぐるぐる回ったりした。
あの時は本当に嬉しかった。もっとこの人の力になりたいと思った。
今のビィの気持ちはよく分かる。感情を感知する角が、久々に喜びの感情を捕らえて、
温かな光を放った。
しかし、その光が今の自分には苦痛だった。
―――ダン。
主人は自分がサーナイトになるのを見たいと言った。
それは嘘じゃない。むしろ、切実な本心だった。
けれど。
―――『かわらずのいし』だ。これを持っていれば、早く技を覚えられる。
これだけは、嘘だ。ダンが生前、唯一ついた嘘。
あのときの自分は『進化が許されない』存在だったのだ。
だけど、どうしてダンを責められるだろう?
そうしたくなかったことも、知っていたから。だからあの人は、最期に自分が最終形態になることを望んだのだ。
セイラは大きくなったビィを抱き上げてみたり、ビィもくるくると回って見せたりして、はしゃいでいる。セイラのここまで嬉しそうな顔を、初めて見た気がする。ベティやジュノーも楽しそうだ。
(素直にあの中に入れたらいいんだろうけどな)
今も自分の心を占めるのは、ダンだ。
そのせいでセイラにかなり押しつけがましく迫り、戦いを強いてしまった。
自分の事ばかり、とはセイラより自分に当てはまることだ。
少し冷静になろう。どのみちセイラは戦うことになるのだから。
緋雨は一度深く呼吸して、一行をクロガネへと促した。
緋雨にうながされ、本来の目的を思い出したセイラは、あらためてポケモンたちに
声をかけた。
「クロガネへ急ごう。ヨスガの人たちを助けなきゃ。あらためて、お願い。みんな、力を貸して!」
ビィの進化を受けて、一行の士気は上がっていた。
全員、もちろん!と言って、目を輝かせた。
はじめてセイラが、自分から動いた瞬間でもあった。
「行こう!」
一行は出発した。
ジュノーが再びセイラを乗せ、走り出す。
ビィの次に手持ちに加わったジュノーもまた、感情を刺激されていた。
(ビィに負けてられねぇよ!)
得体の知れないところもあるが、間違いなく一番の好敵手。
ここまで競い合ってきたのだ、負けられない。
そして。
(目つきが、変わった)
背中に乗せた、泣き虫だったはずの彼女の変化。
気弱な様子にいら立ちを隠せない時もあったが、今はどうだろう。
伏し目がちだった瞳は今、まっすぐ前を見つめている。
(コイツを、確実にクロガネまで連れていく!)
ジュノーの足は、逞しくテンガン山の岩石だらけの山道を蹴った。
確実に、前へ。
セイラ達の、その強い意志は、『波導』としてある人物に感知されることになる。
「ゲン、妙な空だな。向こうには何かあるのか」
「…トウガンさん。不穏な気配の中に、強い波導を感じます」
テンガン山の方から、何かがこちらへ来ます。
かなり強い意志をもって。
(これから、何かが起こるな)
クロガネシティにやって来ていたのは、ミオシティジムリーダー・トウガンと、波導使いと名高いトレーナー・ゲン。
二人は長く戦い続けた経験から、来るべき戦いを予感していた。