Get your life!(2)
□焦燥
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第56話 焦燥
(さて、そうなるとどう動きましょうか)
自室へと下がったコクランは次の行動について考えていた。
力を増し、横暴さが目立ってきた成り上がりの組織と、いかに上手に手を切るか。
下手に刺激すれば騒ぎかねない。手切れ金を握らせても調子にのる可能性がある。
正直、ギンガ団がここまで悪い方向に成長するとは思わなかった、というのが、ロザンナとコクランの共通見解だろう。
それでもやりようはある。だからロザンナはいつも通り一切を任せており、コクランもそれに応えるのみ。
しかし今回ばかりは少々手こずりそうだ。
(ギンガ団と手を切るということは…セイラ様が人質に取られる可能性がある)
コクランにとって一番避けたい事態だった。逆上したギンガ団が、逆恨みにセイラを捕らえてこちらへ要求を突き付けてくる可能性がある。
当然、ロザンナは応じないだろう。カトレアが勝手に重要人物としてセイラを探し出すよう要請したにすぎないのだから。むしろ好都合だと言いかねない。カトレアが懇願したところでそれは変わらないだろう。
(貴女を泣かせていいのは、私だけです)
ギンガ団と穏便に手を切れれば理想だが、そう都合よくも行くまい。
そうなると、一番確実なのは、セイラをまず見つけ出すことだろう。
セイラを秘密裏に見つけ出し、安全な場所に囲ってしまおう。
そしてその後、ギンガ団と決別する。
この家に仕える者としての責務と、自身の望みが一致するのは、そこしかない。
(これは、今まで以上に懸命に探さないといけませんね)
どんなに憎まれようとも、今度はセイラ自身の安全に関わるのだから。
コクランはいつもより少しだけ深く息を吐き、手にした資料を机に置いた。
そのとき、コクランの通信機が鳴った。
相手は屋敷で働くコクランの部下で、ギンガ団の行動など、シンオウ中の実情調査に当たっている者だった。
どうしたのです、とコクランが尋ねるより先に、
「大変です、ギンガ団が…、ヨスガシティを襲っています!!!」
あまりの事態に、コクランは大きく目を瞠った。
「どういうことですか、それは?」
部下は、ヨスガシティがギンガ団によって封鎖され、暴虐の限りを尽くしたこと、つい先ほどまで通信も遮断されていたこと、自分も街中にひそんでギンガ団をやり過ごしていたが、急に通信が回復したことなどを早口で告げた。
「現在は、一部の戦えるトレーナーたちがポケモンジムに立てこもり、ギンガ団と応戦していますが、時間の問題でしょう。」
それより、大変なことが、と部下は続けた。
「ギンガ団員の会話を盗み聞いただけなので、確証はないのですが…、どうもこの街にセイラ様がいらっしゃる様なんです…!ギンガ団と戦って、怪我をされたと情報があります」
「…!!!」
コクランの表情が一変した。
部下にはその場に待機するよう告げ、上着をサッと羽織る。
「私もこれからそちらへ向かいます」
全く、何をどうすればそうなるのか。
どうしてそう巻き込まれるのか。
(ご無事でいてください、でないと許しませんよ…!!!)
屋敷の者に、コクランはヨスガの非常事態の偵察に行ったとロザンナに伝えるように告げ、
コクランはムクホークに飛び乗った。奥歯を噛み締めたその表情に、いつもの余裕は無かった。