Get your life!(2)

□恐ろしい男
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第63話 恐ろしい男

コクラン。
そう認識した瞬間、頭が真っ白になり、体がこわばった。

そんなセイラには一向構わず、コクランは悠然と笑みを浮かべた。そして目くばせだけでエルレイドに指示すると、残りの下っ端達を薙ぎ払った。


「お前は…!これがどういうことだかわかっているの!?」


声を荒げたのはジュピターだ。
彼女にしてみれば、これは明らかなギンガ団への裏切りだ。
また、周囲のトレーナーたちも動揺していた。唐突に現れた、バトルフロンティアの名高き『キャッスルバトラー』。心強い味方かと思いきや、ギンガ団と関りがあったのか。
だが、戦いになったとしても今の自分たちでは太刀打ちできない―――。
そう思わせるほどの威圧感が、今のコクランにはあった。
冷静に状況を把握しようとしているのは、ミクリとゲンだけだった。


「当家といたしましては、度重なる契約違反に腹を据えかねていたところです。それに加えて今回のこの暴虐。元より、この方への危害は許されません。」


どよめく外野の声など聞こえない様子で、コクランは淡々と告げた。一瞬だけ、傍らの『この方』、セイラに慈しむような視線を送ったのを、ゲンは見逃さなかった。


コクランは高らかに告げた。


「主人からの伝言です。ギンガ団への援助は一切終了とする、と」


本日はそれをお伝えに伺った次第です。そう言うとコクランは一礼した。


「…ッ、この、ふざけんじゃないわよ!!この状況で、よくも、そんな事が言えたわね!!今さら綺麗事言ったって、アンタたちがギンガ団を支援した事実は消えない!!」


ジュピターの剣幕に、周囲の下っ端達は泣きそうな顔をした。周囲のトレーナーたちも、疑惑の視線を向ける。
しかし、コクランは表情一つ変えない。静まり返った中、コクランの静かな声が異様に響いた。


「ええ、それは当家が社会貢献の一環として『宇宙エネルギー開発』に投資していたからです。主人は最近のギンガ団の行いを知り、その反社会的活動に失望しました。」


「なっ…」


絶句するジュピターに対し、まるで幼子に諭すかのような調子でコクランは続ける。


「あなた方にも何かお考えがあるのでしょう。思想信条は個々人の自由でしょうが、それならばギンガ団の思想にどう向き合うかも我々の自由です。」

「バトルキャッスルを擁立する誇り高き当家といたしましては、反社会的組織とのお付き合いは断固としてお断りいたします」


毅然と言いきったコクランに対し、周囲のトレーナーたちが向けていた疑いが晴れていくのが分かる。セイラの呼吸は浅くなった。
この男は、相変わらずだ。恐ろしい。上品に、言葉巧みに、人の心を意のままにする。技術への投資だなんて嘘だ。ギンガ団に汚いことをさせていたくせに、まるで裏切られたのは自分たちであるかのように、印象を変えてしまった。


「ほんとうに覚えていなさいよ、アンタたちの身勝手さ、こっちは死んでも忘れないわ!!必ず、必ず痛い目見せてやるから!!」


激高したジュピターの感情を、セイラだけが正当なものだと思った。



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