Get your life!(2)

□覚悟を決めた瞳
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覚悟を決めた瞳

「もういいだろう。急に返事ができる話ではないと思う。申し訳ないけれど、今日のところはお引き取り願えないかい」


ダイゴが促すと、コクランはあっさりと引き下がった。連絡先を書いたメモを、テーブルの上に置くと、ダイゴの別荘を去った。

「かしこまりました。おっしゃる通りです。このような様子で、直ちにお返事いただけるとは私も考えません」


コクランが出た後、戸をしっかりと施錠したダイゴは、居間で椅子にこしかけたままのセイラを見た。当然ながら、ひどく疲れた様子だ。

「セイラ、大丈夫かい」

「ええ、……なんだか、沢山知らない話を聞かされて。正直、気持ちは本当に混乱してる」

「落ち着くんだ。彼の話が、必ずしも本当とは限らない。君を利用するために、都合よく話している可能性だってあるんだ。一番君が動揺するやり方で」

そうだ。セイラは思った。今までの自分なら、泣いて、気を失ってしまっただろう。
それが出来ないのは、ひとえにコクランと、あの家への反抗心。だが。

「分かるわ。でも、その一方で、妙に納得できてしまった部分もあって。――どうしてずっと、閉じ込められていたのか、とか。どうして父はずっと母様に固執していたのかとか。昔ふたりがしていた言い争っていたことが、さっきの話に結びついてしまうの」

「……」

「ダイゴ、私ね、ずっと気になってた。母様はどうして「はっきんだま」をずっと大事にしていたのかって。隠したとしたらどうしてなのか。本当に何か手がかりがないのか。あんなに一緒にいたのに、私は何も知らなかった」

「セイラの気持ちは分かるよ。でも、今ここで彼の話を請けてはっきんだまを探すことは、ギンガ団と関りをもつということなんだ。それがどれだけ危険なことか、戦った君が一番分かっているよね」

ダイゴは諭すように話した。そう、妹さんのことも含めて、それは国際警察に任せるべきことだ。
何もこれ以上深入りして、苦しむことは無い。

だが、セイラの眼は、覚悟を決めつつあった。

「そう、ね――ギンガ団は、とても危険だわ。『新世界を創造する』ために、今の私たちの住むこの世界そのものを壊そうとしてる」

「何だって……?」

ダイゴは絶句した。あまりにも突飛な話ではないか。だが、それを確実なものにするために、ギンガ団はどれだけの被害を出してきたか。彼らは本気なのだ。

「そんな奴らに、絶対に母様の形見を渡してはいけないわ」

「そうだよ、ならば猶更」

「なおさら、彼らより早く見つけて隠す必要がある。そう思うの」

ダイゴは、セイラのポケモンたちは、その言葉に驚愕した。
その言葉の行きつく先に、争いは避けられないからだ。

「……ッ、君は、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

「分かってる、とんでもないことだって。……いつも心配させて、ごめんなさい。でも、これ以上ギンガ団を放ってはおけない。私はシンオウで生まれ育ったの。ダイゴに会うための旅で色んな人やポケモンたちに出会ったわ。あのままギンガ団を野放しにして、みんなが酷い目にあうなんて耐えられない!私がカギを握っているなら、なおさら私はこのままではいられないの。……それに、あの子を怖い目に遭わせたままにしたくない。私をどう思っているか分からないけれど、それでもあの子は私の妹だから」

だから、とセイラはダイゴの瞳をまっすぐに見つめた。
ダイゴは頭を抱えたくなった。だが、それはセイラに安全に暮らしてほしいという、自分の価値観や希望だけを念頭に置いているからだと、嫌でも自覚した。もし自分がセイラの立場なら、それを選んだに違いないからだ。

そして、セイラも変わった。もう、一人きりで抱えようとは思わなかった。
たとえ断られたとしても、大切な相手とは、まず話をするべきなのだ。

「ダイゴ、お願い。私と一緒に、はっきんだまを探して。鉱物に詳しいダイゴなら、きっと何か気が付くこともあるかもしれないもの」

「……それは構わないけど、セイラ、妹さんのことはどうするつもりなんだい?
これからギンガ団とも戦うことも、当然ありうるよ」

ダイゴは問いかけた。この問いへの答え次第では、行かせないつもりだ。
だが、セイラは少しはにかんで、あっけらかんと、こう答えたのだ。

「…そうね。めちゃくちゃな話かもしれないけれど、はっきんだまを見つけたら、コクランにギンガ団と交渉させようと思うの」

「?」

「引き渡しの場にカトレアを連れてくるようにって。…そしたら、国際警察のひとにも声を掛けておいて、その場でギンガ団と戦う。コクランにも当然戦ってもらう。そしてカトレアを連れて逃げるわ」

なんてことだろう。彼女はとっくに、戦う覚悟を決めていたのだ。

「そこまでは、あまりにも危険だから。ダイゴには無理にお願いできない。私たちで頑張るわ。だから、せめて特訓を――って、ひゃあ!?」

「おばかなことを言うのは、その辺にしてくれないかな」

セイラの言葉は、ダイゴのプライドを刺激したようだ。頬をダイゴの両手でむにゅっと押さえられたセイラは、目を丸くした。

「まったく、君はもう……。僕を誰だと思っているんだい」

ホウエン地方のチャンピオンじゃあ、ギンガ団を相手するのは役不足かい?

「乱戦にはなるだろうね。だけどこっちだって、経験がないわけじゃない。すぐに感覚を掴んで見せるさ。ポケモントレーナーは、ポケモンと共に戦うプロ。僕はその中のチャンピオンなんだから」

ダイゴ…と安心したようなセイラに、ダイゴは意地悪くほほ笑んだ。

「それにしても、だ。僕を心配するようなら、セイラ、君は相当強いと見たよ」

今日からは本気で特訓するわけだけど、きっと余裕だろうね?
その言葉に、セイラは冷や汗を流した。これから、とんでもない日々が続くような気がする。だけど、心強い味方がいることに、心の底から安心した。

(大丈夫だよ、セイラ!僕たちもついているんだから)

セイラの手持ちたちのボールも、カタカタとなった。皆、気合十分だった。



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