Get your life!(2)

□メガシンカ
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第99話 メガシンカ

「話は決まったようだね」

ダイゴは二人にほほ笑んだ。そして、表情は一転凛々しいものになる。
セイラにキーストーンを、そして、二人の答えを見越して準備していたのだろう、ベティにはメガストーンを装着できるチョーカーを渡した。
二人はそれぞれのストーンを受け取り、互いに頷いた。

「じゃあ、いくよ」

セイラの言葉に、ベティも「ええ」と応える。

「ベティ……、メガシンカ!!」

途端に、眩い光がそれぞれの石から生じ、その光はつながった。
セイラとベティには、互いの思いや力が、互いの心身に流れ込んでくるような感覚があった。

「第一関門はクリア、か」

ダイゴは呟く。心の底から信頼し合う、強い絆で結ばれたトレーナーとポケモンであること。そうでなしに、メガシンカはできない。

「う…!」

次第に、ベティの体を包む光が強くなる。光の中に浮かぶシルエットは、姿かたちを次第に変え――、そして、

「アアアアアアアアアアアア!!」

けたたましい叫び声とともに、ベティは、メガジュペッタになった。

(憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ!!!!!)

溢れでる怨念のパワーに、ベティは自身が一瞬吞まれそうになるのを感じた。

――しかし、もう、恨みに任せて子供を脅かした、かつてのジュペッタではない。

ベティはグッと堪えた。

流れてくる力――怨念の向こう側に、温かい、確かな力を感じたのだ。

「セイラ!!」

名を叫べば、その人は呼び返してくれる。付けてくれた名前だ。

「ベティ!!頑張って!!」

セイラもまた、ベティから流れ込んでくる怨念の力に圧倒されそうになった。
つい先日、憎い相手に対峙して疲弊した心には、抗いがたいものもあった。
身を委ねてしまいたくなった。

(でもそれじゃ、守りたいものを守れない……!)

セイラがもし一人きりなら、あるいは呑まれてしまったかもしれない。
しかし、セイラは一人ではなかった。
ダイゴがいた。ミクリやフヨウ、メリッサやデンジやオーバ、スモモ、大切な人たちがいた。そして、ポケモンたちがいた。
その中には、この、純粋で世話焼きな可愛いベティも含まれているのだ。
セイラは叫んだ。

「お願い、ベティ!!憎しみに呑まれないで、一緒に、未来のために戦って……!!」

刹那、光が満ちて、ベティの眼はいつもの穏やかさ――セイラを慈しむ目に戻った。
メガジュペッタとなった力の暴走を、自身の意志でコントロールしたのだ。


「……セイラ」

「ベティ!」

セイラはベティに駆け寄った。ベティは新しい姿を自慢するように、くるりと回って見せた。ベティはほほ笑んだ。

「アタシの新しい姿、素敵でしょう?」

セイラは「とっても素敵よ」と涙ぐみながらほほ笑み返した。ダイゴも、安堵したように息をついた。

こうして、セイラとベティは新たな力、メガシンカの力を手にした。

――この力は、守るべき未来のために。

そう決めた二人は、さっそくダイゴの指導のもと、メガシンカ状態での訓練を行うことにした。




それから一月。セイラは逸る気持ちを抑えながらメガシンカ状態での訓練を続け、初めの時よりも安定してメガシンカを使いこなせるようになった。
これに誰よりも喜んだのはベティ自身で、今では強力なエネルギーを、繊細なコントロールで扱うことも出来る。

セイラの手持ちは成長した。もちろん、ベティだけではなく、他の手持ちたちも、この一月の間に修行したのだ。
逞しく育ったジュノー。葛藤を乗り越えたスバル。すでに最高の練度に鍛え上げられていたポっちゃん。そして、最初の相棒、ビィだけはこの場にいないが、着実に強くなっている。コクランが鍛えているのだ。セイラがポッちゃんの決まった訓練を行う代わりに、コクランがビィを鍛え上げることになったのだった。

「私のポケモンですから、戻って来た時に鈍っていては困ります。それに、セイラ様のビィにはまだ伸びしろがある。ギンガ団との戦闘に備えた戦力の増強は必要なことでは?」

心境としては複雑だが、コクランはキャッスルバトラー、腕は確かだ。セイラはこの提案を呑んだ。そして本日に至る。


(もう、いいだろう)

指南役を担ったダイゴは頃合いを見た。
ここまで鍛え上げたなら、テンガン山へはっきんだまを捜索しに向かい、ギンガ団と戦闘することになったとしても対処できる。
コクランにはギンガ団に『はっきんだまについては前の持ち主の娘であるセイラの記憶のみが頼りだが、肝心の記憶が曖昧で手間取っている』と報告させていた。時間を稼いだ隙に、ポケモンたちを鍛え、ジムリーダーたちに連絡して協力の約束を取り付け、来る時までに準備してきた。カトレアは人質に取られているが、ギンガ団はそれ以来目立って強硬な手段を示唆せず、定期的にコクランに報告させるばかりだ。セイラが手掛かりと知っていてもなお、セイラを誘拐しないのは、コクランの達者な口車と、国際警察がセイラの周囲を警戒していることを知っているのだろう。ダイゴは、コクランが別荘を訪れたその日、すぐにハンサムに連絡していたのだった。

(とはいえ、最近はギンガ団がらみの目立った動きがない。何か水面下で動いている可能性が高いな)

こちらが戦力を揃え戦いに備えているように、ギンガ団もまた、はっきんだまを手にして、野望を叶えるその日を待ち構えているに違いないのだ。
緊張は高まっている。こちらが何か動きを見せた時、ギンガ団も行動を起こす可能性が高い。

そう身構えているのは、ダイゴだけではなかった。コクランもまた、機が熟したと察知していた。セイラはもう、十分に戦える。あとは捜索に出かけるだけだ。
当然、当の本人にもその意志がある。この一か月間、技のみならず知識も十分に蓄え、愛すべき暮らしを守りたいという感情も、高まっていた。

「ダイゴ、コクラン」

セイラは二人を見た。

「もう、大分戦えるようになったと思うの。はっきんだまを探しに行きたい」

――テンガン山へ。

二人はセイラの顔を見て頷いた。出発は明朝と決まった。
これが、セイラにとって最後の戦いの、幕開けであった。


自室に戻ったセイラは、荷物の準備を進めていた。
山での捜索だ。装備が沢山必要になる。いつか家を飛び出したときは、なんと無謀だったのだろう。

(ろくに準備もしないで、船の備え付けの毛布を貰ったりしたっけ)

着の身着のまま、ポケモン一匹も連れていない状態で始めた冒険。何も知らなかった日々が、不意に懐かしく思えた。あの頃の自分には、本当に何もなかった。ダイゴに会いたい、ダイゴに助けてほしい、という気持ちしか、自分にはなかったのだ。

「今度は、私が皆を守りたい。助けたい」

つい、力が入ってしまったところに、ふいに穏やかな香りがした。
母の写真と共に缶に入っていた、匂い袋。胸いっぱいに香りを吸い込んでみると、不思議と心が安らいで、勇気が出てくる気がした。

(母様、お願い。どうか見守ってね)

セイラは、匂い袋をウエストポーチの中に仕舞った。これがあれば、母と共に戦えるような気がして、頼もしく思えたのだった。



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