Get your life!(2)
□決戦へ
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第107話 決戦へ
翌日、コクランはカトレア解放のためギンガ団との交渉に出かけ、深夜に戻ってきた。その表情は、苦渋に満ちたものだった。
「大変申し上げにくいのですが、実に許しがたい回答でした」
セイラ、ダイゴ、シロナ、そしてセイラの連絡で来ていたハンサムは、その回答に驚いた。
――カトレアの身柄は、はっきんだまとセイラの身柄をもって引き換える。三日後、テンガン山東側に、セイラを伴って来い。
これがギンガ団からの返事だった。他の選択肢も、交渉の余地もなかったという。
「どういうつもりなんだ!?」
怒るダイゴに、コクランは答える。
「渡されたはっきんだまが偽物ではないことの保証でしょうか。ギンガ団も、セイラ様とはっきんだまの浅からぬ繋がりに気が付いたと見るべきでしょう」
忌々しいが、一度裏切った者とのやりとりとして、理にかなっている。
「そして、連中はこうも言いました。『新世界』の始まりを見せてやる、と」
「!!」
それはつまり、ギンガ団がディアルガやパルキアを操り、新世界の創造を決行するということだ。それが三日後に迫っている。
「カトレア様のお命がかかった焦りから、連中にセイラ様のお名前を出してしまった私の失策です。なんとお詫び申し上げたら良いのか」
コクランは深々と頭を下げた。この事態を招いた己が不甲斐なく、奥歯を強く噛み締めた。
セイラのポケモンたちのボールはカタカタと鳴り、ダイゴやシロナ、そしてハンサムも深刻な表情を浮かべた。
三日後、世界の存亡をかけた戦いが起こるだろう。慎重に作戦を立てて対処するべき事柄に、猶予は与えられなかった。その場にセイラは名指しで呼び出されたのだ。
しかし、当のセイラはこともなげに言ってのけた。
「そうね、でも、元々追われていたから変わらないわ。いずれにせよギンガ団との戦いは避けられなかったし。……むしろ、そこで戦うなら、私、分かりやすい囮になれたりしないかな?」
一瞬、場の空気が固まった。
「君はまたそんなことを…危機感がなさすぎる!!」
とダイゴは頭を抱え、シロナは噴き出して、「大物ね」と笑った。
手持ちのポケモンたちは呆れたり少し怒ったりしつつも、着いていく決意に揺らぎはない。
コクランは、ただひたすらに唖然としていた。
ハンサムは驚いた様子だったが、セイラのいう『囮』という言葉に、
「なるほど。一考の余地があるが……、」
と頭を掻きむしった。
「しかし、どうする。事を為そうと言うんだから、アカギ含め幹部級の団員から下っ端まで揃い踏みで来ることだろう。くそっ、連中より先回り出来たらいいんだが」
そこに、シロナが呟く。
「ディアルガ、パルキアに関連する伝承のある、テンガン山の場所……」
「シロナさん」
セイラの声に、シロナは余裕の笑みを見せた。
「ええ。心当たりがあるわ。ディアルガもパルキアも、神と呼ばれるポケモンだけど、神を招くなら儀式をするものなの。ギンガ団が儀式をなぞって彼らを呼び出すとしたら――場所は『あの場所』ね」
そして、三日後。指定された日の当日、朝。
セイラ達の滞在先のホテルの前に、懐かしい面々が現れた。
「おはよーセイラさん!!助けにきたぜ!!」
「ジュンくん…!?スモモちゃん、マキシさんも!!」
「セイラさん!!一人じゃないですよ、一緒に戦いましょう!!」
「ノモセ湿原ではやられたが、もうこれ以上は好きにさせん!!」
「ハーイ!!ワタシも来てますネー!!」
「メリッサさん!!」
嬉しい再会に、セイラの表情がほころぶ。
そしてまた、後ろから懐かしい声がした。
「結構集まったな」
「デンジ!オーバも!」
「よう!セイラちゃん、元気そうだな」
にこやかに話しだすセイラにとオーバに、デンジが割って入る。
「ハンサムさんから話は聞いた。また無茶なこと考えてんだろ」
うーん、まぁ、ね?とごまかすセイラに、デンジは呆れたように笑った。
「でも止めたってやるんだろ、お前は。だったら頑張れよ」
「ありがとうデンジ。こうして皆と連絡取れたのは、デンジのおかげだよ」
他にも、デンジ、オーバや他の四天王、トウガン、ヒョウタと言ったジムリーダー、ゲンのような有志の面々も来てくれた。
三日前、巻き込んで申し訳ない、とモニタ越しに謝ったとき、これはシンオウに、この世界に生きるものすべての問題だから気にするな、と言ってくれた、頼もしい仲間たち。
今、この場では湿っぽい言葉はなしだ。
「ありがとう、どうぞよろしくね」
「おう!一緒にギンガ団をぶっ倒そうぜ!」
拳を突き上げて勇ましく笑うジュンに、「それは頼もしいな」と声がかかる。ジュンの目が見開いた。
「なっ、ダディ!?来てたのかよ!?」
現れたのはフロンティアブレーンはタワータイクーン・クロツグだった。
クロツグは息子の言葉に「当然。同僚が困っているんだ」と応えた。
その後ろにはフロンティア・ブレーンの面々が並ぶ。コクランは駆け寄り、彼らに深々と頭を下げて謝意を示した。
約束の刻限が迫る。
セイラはコクランと車に乗り込み、テンガン山へと向かった。
そして、その後を、ある者はひこうタイプのポケモン、ある者は陸路、というように、セイラから付かず離れずの距離で着いていった。