Get your life!(2)

□常世の闇
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第115話 常世の闇

「馬鹿な!!」

アカギが叫ぶ中、砕けた赤い鎖は宙に光を放ちながら、消えていった。
アカギの側でそれを呆然と眺めていたプルートは、隙を見せたその瞬間に国際警察の面々に取り押さえられた。

しかしアカギは諦めた様子はない。

「しかし、まだだ…!!私には、この鎖が、」

「無駄だ」

神殿に現れたデンジが言った。それと同時に、もう一対の鎖、ディアルガとパルキアの体に取り付けられたマシンは、機能を停止した。

「大した技術だった。でも、ここまでだ」

「何だと……?貴様、あのマシンは私が長年かけて開発したもの!!それを解析したと言うのか!!何者だ!!」

「ナギサシティのジムリーダー、デンジだ」

その言葉に、アカギの目は揺らいだ。
「そうか…」とこぼした。そうか。あの町から、この若者が出たのか。

「だが、まだ終わってなどいない」

鎖がなくても、宝玉さえあれば、ディアルガたちさえいればまたやり直せるのだ。
アカギは、祭壇に歩み寄った。しらたまとこんごうだまに手を伸ばす。

「動くな!!」

シロナの鋭い声。ガブリアスが、その腕の切っ先をアカギに突き付ける。
だが、アカギはガブリアスの腕を掴んだ。流血が迸る。アカギの狂気を孕んだ瞳に、ガブリアスはたじろいだ。シロナもまた、顔を顰める。

「これしきのことで、簡単に諦めると思うか」

この男は、本気だ。
手持ちを戦闘不能にされようと、ひとりきりになろうと、長年の計画が目の前で崩壊しかけようと、決して諦めないのだ。

「どうして!?もう決着はついたはずでしょう!?」

セイラの叫びにも、アカギは動じない。

もう、後戻りなどできはしないのだ。
どのみち湖の三匹に呪われた時点で、取返しなどつかなかった。

「出来るだけ使いたくはなかったが、仕方がない。私の命を削ろうとも、貴様らにはこいつで報いてやる」

「!!」

アカギは、何かする気だ!!

止めなくては、そして、宝玉を、彼から引きはがさなくては。
そう思うより早く、セイラの足は動き出して、アカギに掴みかかった。

「セイラ!!」

皆もセイラに続こうとしたが、「これ以上来たらこの娘を殺すぞ!!」とアカギが牽制した。
アカギはセイラを抑え込もうとするが、セイラは激しく抵抗した。とにかく、アカギから宝玉を引き放さなくては!セイラの意図を酌んで、宝玉をエスパーポケモンの力で動かそうとしたものもいたが、不思議な力に遮られて、宝玉はびくともしない。

アカギと押し合い、殴打されても諦めずに、セイラは壇の宝玉に手を伸ばす。
アカギも負けじと手を伸ばし、二人はほぼ同時に宝玉に触れた。

その瞬間だった。

二人の足元に、突如大きな穴が開いた。
それは深い闇、この世のものではない、常世の闇。

「え」

セイラとアカギは、宝玉を持ったまま、謎の闇の中へと消えていった。


「セイラ!!」

「きゃあああ!!アカギ様!!」

セイラを見ていた面々、そして、国際警察に確保されていたマーズと、ジュピターの悲鳴が響く。

何が起きたのだ?

二人を飲み込んだ闇の向こうに、赤い瞳が光るのが見えた。
到底、この世のものではない。

突然の闇に驚いたのはダイゴたちだけではない。
自身の宝玉を二つ、謎の闇に呑まれたディアルガとパルキアは、怒りの声を上げた。
収束しつつある闇をこじ開け、怒りの咆哮を上げながら中へ飛び込んでいく。そしてその影に、湖の三匹の姿もあった。

「セイラ!!」

ダイゴは迷いなく飛び込もうとした。しかし、その瞬間、弾き飛ばされてしまう。


「ダイゴさん、大丈夫?」

大丈夫です、とダイゴは立ち上がる。闇の主は、ダイゴを拒絶した。
ダイゴだけではない。駆け寄った数人のトレーナーも、翳した手を弾かれてしまった。
一体なぜ?

シロナは推測した。あの闇の主は、おそらくギラティナ。反転世界の主。
この混乱を、恐らく収めに来たに違いなかった。
この先はギラティナの領域。無理やりこじ開けた神々はともかく、中に入れる人間を選ぶのだろう。
シロナは、そっと入り口に手を伸ばした。もしも、自分に資格があるのなら。ふと、脳裏に自分に瓜二つの男――、ギラティナを従えたと言う、遠い先祖を思った。
シロナの手は、拒まれることなく闇の中へ入っていく。その間にも、闇――ギラティナの世界への入り口は収束していく。


「ダイゴさん、私は入れるみたい」

だから、行くわ。

ダイゴは悔しそうに言った。

「どうか、セイラをお願いします」

シロナは、ええ、と頷いた。そして颯爽と身を翻すと、闇の中へと飛び込んでいった。
闇は、すぐに閉ざされた。



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