Get your life!(2)

□Get your life!
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最終話 Get your life!!

それから数か月。
シンオウ地方はすっかり平穏を取り戻した。

ここはホウエン地方、平日の昼下がり。
スバルは仕事の合間、セイラのもとへ顔を出した。手には花束を持っている。

「セイラ、久しぶり」

「スバル!体はどう、もう慣れた?」

「いや、まだまださ。トレーニングを重ねていかないとね」

スバルはセイラの手元を見て目を細めた。
左手の薬指には、綺麗な石のついた指輪が輝いている。

「まずは、お祝いを、だね。結婚おめでとう、セイラ」

ありがとう!
花束を受け取り、セイラは笑顔で答えた。シンオウからホウエンへ渡るなり、ダイゴから正式に受けた結婚の申し出。もちろんセイラは二つ返事で受けた。

「これからは、幸せに暮らしてほしい」

それから二人は近況を語り合った。
人間になったスバルは、国際警察でハンサムの部下として働くことになった。
彼の名乗る名は――スバル・フローライト。コードネームは、緋雨。
人間の体になって、まだ慣れない部分も多いらしい。
だが、生活の変化はどんどん押し寄せているようだ。

「この前、正式に国際警察の一員になったよ。新人のくせに妙に内情に詳しいって、ちょっと怪しまれたから気を付けなくちゃね」

まさか、ポケモンだった時に勤めてました、とは言えないものね。
セイラは笑った。

「そして、捜査員として、この子を預かったんだ」

「わ…タマゴ!?」

ああ。とスバルは頷いた。パートナーとなるポケモン。
スバルは、おやになるのだ。

「元ポケモンがトレーナーになるなんて、妙な感じもするけどね。それでも俺は、この子の親として生きていこうと思う。セイラや皆がくれたこの平穏を、この子と共に守ってみせるよ」

セイラは慈しんで、スバルの持つタマゴを撫でた。
タマゴは、ほんのりと温かい。誕生のときを今か今かと待ちわびているようだ。

「生まれたら、この子のお顔を見せに来てね」

スバルは、もちろん、と頷く。
それじゃあ、もう行かなくちゃいけないから、とスバルは席を立った。

「セイラ、本当にありがとう。貴女に会えて、本当に良かった」

ダイゴさんにもよろしく。どうぞお幸せにね、とスバルはほほ笑んで、発っていった。
次に会うのは、数か月後のセイラ達の結婚式だ。

セイラの手持ちにいたポケモンたち。蘇芳丸はシロナの元に。そしてスバルは人として生きている。
今、手元にいるのは、ビィ、ベティ、ジュノーの三匹だ。
三匹は、窓からスバルの後ろ姿を眺めている。


「あーあ、すっかり丸くなっちまって。張り合いがなくなっちまった」

つまらなさそうな、こそばゆいような顔をするのはジュノーだ。
それをベティがからかう。

「またまた。寂しいって素直にいいなさいよ」

ビィはセイラの膝に乗って、撫でてもらいながら言った。

「セイラ、スバル元気そうでよかったね!」

そうだね、と相槌を打ちつつ、セイラも身の来し方に思いを馳せた。
ここしばらく、家でのんびりと過ごしていたが、スバルも、蘇芳丸もきっと頑張って過ごしている。

――私は、これからどう生きていこう?

妹のカトレアとは親交が生まれたが、生まれ育った家に戻ることはもう無い。
このままダイゴとホウエンで暮らしていくことになるだろう。
だが、セイラには新しい気持ちが芽生えていた。

(旅に、出てみたい)

知らなかった景色。見たこともないポケモン。この世には、不思議なものが沢山溢れている。そして、沢山の愛しいものたちとの繋がり。
旅は、私の世界を広げてくれた。
もっと沢山、いろんなことに触れてみたい!

「セイラ」

「わぁ!?」

セイラは、考え込んでいたところに、ダイゴから声を掛けられて飛び上がった。

「また考え事をしていたのかい?」

少し呆れたようにダイゴが笑う。
あたりは暗くなり始めていた。
思ったより時間が経っていて、ダイゴがいつのまにか帰ってきたのだ。

――また一人で考え込んでしまって。

そうだ、セイラの治らない癖。もう、一人ではない。考えや思いを、伝えなくちゃ。一人で考えているだけでは、伝わらない。
セイラは改まって、ダイゴに切り出した。

「ダイゴ、あのね。これからのこと、いろいろ考えてたの」

ダイゴは、うん、と頷いた。

「それで――良かったら、結婚式のあとでいいから、一緒に旅をしてみない?」

ダイゴは目を丸くした。

「旅に?」

セイラは、自分の考えや思いを打ち明けた。
ダイゴはしばらく黙って聞いていたが、「いいね」とほほ笑んだ。

その後は、どの地方に行ってみるかで大いに盛り上がった。
カトレアとは、いずれイッシュにある別荘に遊びに行く約束をしたところだ。カントーやジョウトも良い。アローラ地方も魅力的だし、ガラル地方のスケール感の大きいバトルも興味深い。雑誌に掲載されていた、パルデア地方のテラスタルという現象に、ダイゴの目は釘付けだ。

「どこに行くか…いや、全部行こう!」

「ぜんぶ!?」

「勿論!ホウエンに帰りながらね。その方が楽しいだろう?」

ダイゴは少年のように微笑んで、さあ、そうと決まれば旅支度も並行しないとね、と準備に取り掛かり始めた。セイラはダイゴの切り替えの早さに驚くばかりだ。

「新しいぼうけんかぁ、ボクとっても楽しみ!」

「また色んな奴とのバトルを楽しませてくれよ!」

「ダイゴさんて、結構行動派よね!それはそうと、うんと素敵なものに沢山触れましょうね!」

「そうだね。みんな、またこれからもよろしくね!」

セイラの言葉に、三匹はもちろん!と答えた。


かくして、一人の頼りなかった少女は、旅に出て仲間と出会い、数々の冒険を経て、一番強く望んだもの――平穏な暮らしを手にした。
しかし、旅は終わっても、人生は続いていく。その先にある新たな出会いも別れも、きっと彼女の宝物になっていくだろう。

数か月後、祝福に包まれた結婚式を終えたセイラは、旅支度を整えた。
新しいスニーカーを履いてみる。新たな出会いの予感に、ワクワクが止まらない。

「さあ、行こうか、みんな!!」

新しい冒険へ、セイラは、一歩踏み出した。

(完)



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