□ポッキーゲーム
1ページ/2ページ




今日は集まりが悪いのに、
なんだかんだで気が合う四人組で妙なテンションになっていた。



カラオケボックスの座り心地の良い黒ソファーに深く沈み、
自由に食べるなり飲むなり歌うなりひっきりなしにサウンドや会話が流れている。


そんな中、新垣が注文したたくさんのチョコレートポッキーを嬉しそうに口でポリポリ食べていたというきっかけで、
その場の流れかゲームをしようという事になった。
カラオケでやる事がなくなってきたからか、木手も知念に言われて、良いですよとだけ口にした。
今は主将というよりもカラオケで遊んでいるやけに大人びた中学生という印象だった。


簡単にじゃんけんをし、初めは新垣と木手という組み合わせになる。
この二人は部でいう部長と次期部長だ。
けれど二人でポッキーを口に挟み向かい合い見つめ合う姿は周りから見て、
良い意味で近寄りがたく魅惑的で美しい空間があそこにだけ漂っているのではないかと思うようなそんな錯覚を知念と不知火は起こして呆然と見入っていた。



「(…すごい威圧感…)」



新垣は目の前の木手に気圧され、おずおずと手を木手の胸板に当てた。
こんなに近くでまじまじと顔を見たのは初めてで、
新垣は内心うっすらと綺麗な顔立ちをしている…と目線を離さないでそんな事が頭をよぎった。



「新垣…!寸で止めろよ!」



外野がなんだかうるさい。
不知火と知念からの熱い視線も、浴びる声も新垣には耳に入ってこない。

ギリギリまで粘るつもりだったが徐々に近くなる威圧感に耐えられず
ポッキーを歯で噛んでしまい、そのまま木手は新垣を見つめたまま。



「俺の勝ちですね」



そう少し笑んで新垣の髪を子供のように撫でた。
きゅんとしてしまった新垣は驚いて木手を見上げ、
少し柔らかなオーラを放つ木手の指でそばかすに触れられる。



「透き通っている肌にそばかすは、なんだか可愛らしいですね」



それは先輩が後輩に言う様な"可愛いらしさ"だった。
まだ見つめ合っている珍しい光景に、
いつの間にか近くまで見に来ていた不知火と知念は二人でボソリと喋っている。



「あのまま…永四郎が食べ続けていても、見送るところだった…」

「あぁ…新垣が止めなかったら、止めに入ろうと思ってたけど、あれは無理だな…」



珍しく意見が合う二人に、木手は早くしなさいよと痺れをきかした。



「って、ちょっと待てオイ…!俺、知念とじゃん!」

「負きらんど―、不知火」



悪い笑みをしてポッキーを口に挟む知念に背筋が凍った不知火は、
肩に手を置かれソファーの背もたれに追い込まれた。
室内に悲鳴が響いたのは言うまでもない。



「わ―の圧勝!」

「真面目にやりなさいよ、不知火くん」

「わっさい!俺の負けで」



うなだれてソファーに突っ伏していた不知火は
木手に謝り新垣の横に逃げた。



「次はどうします?」

「わ―、永四郎とやりたい」

「いいですけど」



三回目は知念と木手の対決になった。
ある意味にらめっこでは最強の二人と言えようか。
新垣と不知火は密かにそう悟った。



「これどうなるんだろ…」

「木手、油断するな。アップのときの知念の顔は…気迫半端ないぞ!」



木手はなんともない顔でチョコレートが付いている方を食んで上に向け、知念がもう片方をくわえる。

徐々に噛んでいき見つめ合った(ガンを飛ばしている様な)二人は、
周りからは異様な光景にしか見えず不知火と新垣は息をのんだ。


鼻先が当たりそうになる所で知念は木手の肩に手を置くと、
木手はこのままだとお互い気を引かないんだろうなと感じた。
知念の気迫にも動じず、逆に下から向けられる木手の威圧感にも動じずに
唇が触れそうで触れない距離までで止まった。

不知火は新垣に小声で訊ねる。



「この場合…どっちが勝ちなんだ」

「口を付けた方が、勝ちでしょ?」

「な…っ」



口を付けたのは知念からだった。
木手の唇に当たってもいいものだろうかと考え悩んで動きが止まっていたが、これはゲームなのだ。
知念はそう言い聞かせて最後まで食べ進め口付けしてしまった形になっても、木手は逃げなかった。
少し目を見開いて、知念の服を握ったが触れた唇が少し離れて息を共有してしまう近距離でも離れなかった。



「ちゅうの味…チョコの香り…」



知念はちゅうの味が黒糖ではなくチョコだったと呟いたら、
木手は我に返って強く胸板を押し返した。



「わ―の勝ち」

「……分かってますよ」



悔しそうに眉をつり上げて睨むから妙な空気間で新垣と不知火は言葉を無くす。



「唇柔らかかった」

「っ……!」



最後の一言で木手からの鉄拳を知念はくらった。



「新垣くん」

「は、はいっ!?」



怒りのオーラを纏った木手に突然呼ばれ、新垣は肩を跳ねさせ声が裏返ってしまう。



「君がやらずとも結果は見えているでしょう。ゲームはこれで終わり」



次にやるはずだった知念vs新垣はお流れになって、
結局木手が機嫌を損ねて帰り仕度を始めた。



「永四郎、どこ行くさぁ?」

「俺は先に帰ります」

「わ―も…」



一層増した睨みに知念の声が掻き消され、一人で先に帰ってしまった。
見兼ねた不知火は声をかける。



「知念、お前…勝ちに行かなくて良かったんじゃないのか。一歩譲って、木手に勝たせておけば機嫌良かっただろうに」



不知火の言葉にようやっと頭が覚めた。



「だってゲームだろ」

「そうだけどよ、あいつ人一倍負けたくない性格なのは知ってるだろ?」

「そうだった…」



正々堂々と行く方を選んでしまった知念は後悔した。
明日会ったら、無視せず話してくれるだろうか…そんな不安が一杯になる。



「あ、俺が片しますから…知念先輩追いかけた方が良いですよ」



新垣の一言で、知念は自分の鞄を持って"すまん"と言うと、すぐに勢いよく飛び出て行った。

新垣と不知火はフッと空気が抜けた様に笑った。
それは、また仲直りしているのが目に見えているからだ。



「新垣、とりあえず割り勘だったけど俺が払っとく」

「え!?でも」

「いいよ。あした木手と知念に割り勘分もらうから」



そういうことか、と新垣は納得した顔で頷いた。
お金はもっぱら貯金な不知火が、
自ら奢ると言い出すなんて想像つかないからだ。


「って、ああ――!!」

「なに?大声出して」


不知火は、新垣とポッキーゲームをするチャンスを逃したことに今頃気付いたのだった。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ