□不純
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何気なく目線を落としたら、
木手のバックに見慣れぬものが入っていた。

彼がいま洗面に行ってるのを良いことに、
その銀色に光る包みをすぐ手に取り、目の前でよく確認する。

「………」

この形、間違いない。
あれだ。

「永四郎が…まさか…」

ただ、信じられない。
風紀や規律を守る木手が学校の鞄にこんなものを入れるだろうか。
それ以前に買うところが想像できない上に、俺らはまだ中学生だ。
永四郎を疑うよりも、裕次郎や凛のイタズラの線が高いだろうなと考えてみるが、
モヤモヤする中、木手が帰ってくる前に元通りの場所へ置いた。

木手が手洗いから戻ってきて、そわそわと無意識に気にする様になってしまう。
同性同士なのだから思い切って聞いても不自然ではないのに。嫌な汗が伝う。

「どうしたんですか」
「ぬ―が…?」
「急に固まって、変ですよ」
「そうか?」
「さっきまで、あんなに喋ってたでしょう」
「あぁ…あの…永四郎、」

次の言葉を発するのを木手は待つように視線も身体もこちらに向けてくる。
口からでてこなくて、指だけで鞄を示した。
いま聞かなければ、ずっと夜も眠れない気がしたから、後悔しないように震える指を向けた。

「鞄の中?」

僅かにコクンと頷けば、木手は鞄の中身に目線を下ろす。

「…これ?」

銀色の包みを指で挟んで、知念の前に確認するように見せてきた。
本格的に頭が真っ白になって、言葉を無くす。
木手の手で、そんな風にそれを軽々しく持って欲しくなかった。

「知念くん?」

しっかりして頼られている、そんなイメージに不似合いすぎる姿。
そんな木手は銀色の包みを見ながら淡々と説明を始める。

「これね、家にありまして、くすねて持って来たんです。もともとは親の所持品です」
「…………」
「当たり前ですが俺が買ったんじゃありませんよ。ただ、今日は知念くん家に寄るから興味本意で持ってきました」
「……わ―の家…」
「うん。知念くん家に泊まるつもりでしたし」

そう言いながら見つめてきて、
やっと言葉の意を理解しカァッと一気に熱くなる。

「プッ…、冗談ですよ」
「へ…」

拍子抜けした声が出てしまい、余計笑われた。
笑う顔が心底楽しそうで思わず固まりながら見入ってしまう。

「だって、知念くん想像してたのより良い反応を返すんですもん…っははは」
「永…四郎?」
「ごめん。ただこれは、知念くんの反応を見たくて、くすねてきただけですよ」

ますます訳が分からなくなり、
永四郎の指に挟まれている似合わない包みを奪った。

「どういう意味さ?」
「よかった、知念くんが本当に慣れてない事がよく分かりましたから」
「…………」
「真面目な顔して怒らないでくださいよ。こんなもの、俺が使うと思いました?」
「まさか。裕次郎か凛のイタズラかと…」
「彼らにそれを買う度胸なんてありませんよ」

薄く笑う永四郎と顔を見合せるように、猫背にして覗きこんだ。

「…永四郎は、これ見て恥ずかしいとか思わないんばぁ?」
「家で見つけた時は、少し思いましたよ」
「もう持ってくるな、心臓に悪い」
「きみの反応を見るためって言ったでしょう。何を怒って…」
「そうじゃなくて、こんなものをわ―に見せるな」

銀色の包みの感触にわじわじしながらだんだん口調が荒くなってしまい、
永四郎の鼻が当たってしまうくらいの距離で、

「襲うぞ」

知念の睨みに永四郎は動きがピクリと止まって、口を開かせたまま固まってしまう。
しばし無音な間にみるみる永四郎の耳と頬が熱を持ち始め、名前を呼ぶと僅かに肩が跳ねた。

「やめてくれ、ただでさえ留守で一人な日に…。本気で止められなくなるだろ」

永四郎は慌てたように指で眼鏡をかけ直し、小さく…すいませんと口にする。
あまりにも無防備で抱きしめたくなった。

「…いまなら、いいですけど…」

聞き取り損ねそうな小声で柄にもなく弱々しく吐き出された声はどこか震えている。
赤みを帯びているから余計、たちが悪かった。

「…いまなら、押し倒されても、…構いませんけど…」

無意識に身体が動いていて、
気付いたらソファに寝転がった(否、押し倒された)永四郎の上に覆い被さっていた。
なにを、しているんだろうか、一体。

「……知…念…くん…」

やめてくれ。そんな、いまなら何でも受け入れてしまうような、そんな弱りきった顔で、見るな。

「…わっさい…永四郎」
「どうして…謝るんですか」
「こんなつもりじゃ…」

見つめる瞳を逸らさないまま、肩をソファに沈めている俺の手に、永四郎の手のひらがそっと重なった。

「辛そうな顔……。そりゃそうですよね、男同士の、それですし…」
「違う。そうじゃない…!」
「…じゃあ…なに…?」
「こんな…すぐになんて、不純やが」
「気を遣ってくれてるんでしょう?大切に想ってくれてるのは痛いほど身に染みてます」
「…永四郎…」
「それを踏まえて、さっきの知念くんの男に感じて、…もう許してるんですよ」

身体を、と永四郎の口から言われ頭を抱えそうになる。

「…っ……」
「…知念くん…」
「…わ―…怖いと思うんさぁ…、我を忘れると、なにするか分からんくなって、」
「…大丈夫です」

シャツを剥き露になった胸元を見て、もう後戻りは出来ないと感じた。
綺麗な首筋と胸元に唇を夢中で這わせ、眉間に皺を寄せた永四郎はくすぐったそうに身をよじる。
指で柔らかい胸の突起に触れれば小さく洩らす吐息に目眩がする。
ズボンに手をかけ勢いよく下着も一緒に下りてしまい制止する手がすぐに降ってきた。そこは隠れてしまう。

「…待っ…て…!」
「永四郎…手、」
「見ない…で…っ」

さすがに恥ずかしいのか、どけようとしない手の甲に口づけた。
震える手首を掴んで強引に引っ張り、動こうとする脚は自らの脚で抑える。

「もう無理さぁ…永四郎」

何もかも崩れる音がした。
繋がった日のきっかけは銀色のそれ。
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