文
□女化
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「失礼」
鬼に一度下から上まで見られ、丁寧に謝り去っていった。
「何だあれは‥」
やけにじろじろ見られた気がする。様子もいつもと違う。妙だなと歩いてふと手洗い場の鏡で自分を見ると身体が変化していた。
胸が出ていてくびれており、髭がない。他は一緒だった。
まさかと思ったが下が軽い気がする。
「‥信じられねぇ」
合点がいった。鬼は俺だと気付いてない。
まずデュークに相談した。
「先生に言ってみるべきですなぁ」
ヘボコーチ共に相談したらしばらくは休むように言われた。冗談じゃないと思った。
「ちくしょう」
身を隠すハメになった。見つかってもバレないだろうが女が紛れてると騒ぎになりあっという間に広がる。
「仕方ねぇか‥くそ」
鬼「ようデューク。あいつは居ねぇのか?まさか具合でも悪いとか」
デ「まぁそんなところですなぁ」
鬼「あいつが‥?明日槍でも降ってくるんじゃねぇか」
デュークは誰にも言えず体調不良とするしかなかった。
鬼はそれで話は軽く済ませたが、後ほど平等院の部屋の戸まで足を運びノックした。鍵がかかっている。
「俺だ。鬼だ。入っていいか?」
「‥」
平等院は突然の訪問に固まる。
「平等院」
「‥ダメだ」
「風邪か?」
「なんでもねぇ。いいから放っとけ」
「‥大事にな」
鬼は入れてもらえずしばらく戸を背にし天井を仰ぎ見た。
平等院は静かに独り言をぼやく。
「何の風の吹き回しだ‥」
冷やかしではないだろうが心配などしてわざわざ来たのだ。バカめと思った。
平等院は目を閉じ、音がしない事に気付きしばらくして戸を開けた。
「!」
「貴様まだ居たのか」
「‥どうしたよその顔?」
まずいと思った。髭がない事を思い出す。
「痩せてねぇか?マジで体調が悪そうだな」
「‥帰れ」
「‥何度だ?」
「いいから」
鬼に足を挟められていた。この野郎と思うが遅かった。
「移さねぇ為か?ひょっこり顔だけ出したと思ったら出てこねぇでよ」
「‥うるせぇ」
「緑茶だろ?」
「は?」
「取りに行ってくるから待ってろ」
確かに茶を取りに行くつもりだった。今は練習中だから人は居ないと思ったからだ。
「鬼、練習はどうした?」
「んー‥‥抜けてきた」
「‥バカが。緑茶は戸の前に置いてけ。置いたらノックしろ」
「‥いいけどよ」
「触るな!」
鬼は無意識に熱を計ろうとおデコを触ろうとした。その手を払いのける。
「悪い」
鬼は額の傷跡を思い出した。それは快く思わないだろうと一人納得する。
「ちび達と同じように動いちまった。悪く思うなよ」
「分かったから練習に戻れ」
「あぁ、茶を置いたらな」
平等院はため息をついた。サボってまでのこのこと訪れたと思うと無性に腹が立った。
しばらくして、ノック音が聞こえた。
平等院は戸に額を当てて耳を済ませたがあいつの足音が聞こえない。
「鬼、もういい。練習に戻れ」
「あぁ‥」
おかしいと鬼は感じた。なんとなく風邪ではないと不思議に思い、一目平等院を見ておきたかった。なんせ休んだ事がない平等院の初の病欠だ。そして何より顔しか頑なに出さないのが妙だ。何かあるとまで思った。
「ちっ‥」
平等院は戸を開けた。鬼は見計らって戸を閉められないように身体を入れた。
「貴様いい加減にしろ」
「‥!?」
鬼は目を見開いた。
身体の形が違う。胸が突出していて、腰が細い。髭はない。二年の頃の平等院を少し思い出す。
どこかで見た覚えがある。
「あっ‥!あの時の‥!すれ違った、、お前‥お前平等院か??」
「フッ‥さすがに混乱してんな」
「どうなってんだよ!?」
「うるせぇな。誰にも言うなよ」
「‥詰め物じゃなくてか?」
「殴るぞ貴様‥そんな事するか!」
「だよな‥」
「じろじろ見るな」
「いや見るだろ」
胸は大きかった。鬼は見入ってしまう。
「ハッ‥‥こんな場所で缶詰だと耐性ねぇよな、鬼。女によ」
「そ、そんなんじゃねぇ!」
「見入り過ぎだバカ」
「う‥」
なんだか鬼の見た事のない反応が可笑しかった。
「‥それで休んだんだな?」
「あぁ」
「驚いたぜ。治せるのかそれ?」
「知るか」
「知るかってお前‥」
「どうにもならねぇだろ。俺だって好きでこんな不便な身体になったんじゃねぇ。練習にも出れねぇ」
「そうか。先生には話してるのか。つー事はデュークと俺しか知らねぇって事だな」
「貴様が来るとは想定してなかったからな」
「‥予感が当たったぜ」
「?」