文
□女化
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「いや、入るぞ」
「何でだ。練習に行け」
「このまま引きこもるつもりか?何の解決にもならねぇだろ」
「時間が経ったら元に戻るかもしれねぇ。あるいは今夜寝ちまえば」
「試してみる価値はあるけどよ。もし戻れなかったら明日も来ねぇんだろ?」
「‥何が言いたい」
「身体が鈍るだろ。練習相手になってやる」
「‥‥フン。断る」
「何でだよ」
「デュークに頼む」
「!‥そーかよ」
「‥」
二人は無言になったが、鬼は練習に戻ろうと思ったのか戸から離れた。
「じゃあな、何かあったら言えよ。口は固ぇからよ」
「あぁ‥」
平等院は先程までテニスがしたくて疼いて苛立っていたのに何故断ってしまったのかと不思議に思った。
無意識に自分を守った気がした。鬼から。鬼からは離れなければいけないとなんとなく過ぎった。
「‥」
緑茶を手に取り戸を閉めた。
身体は熱かった。会話をしただけだ。妙だと思った。
「女になっちまったのか‥?‥気色悪りぃ‥」
夜寝て朝起きても治っていなかった。
***
「お頭」
「おう、入れ」
「治っていませんな‥」
「あぁ、今日の練習は俺としろ。ヘボコーチ共には話をつけている」
デュークは了承した。これで苛立ちを発散出来ると思った。
ラリーをし軽く打ち合う。胸が邪魔だった。
「‥」
「‥戻るといいですなぁ」
「あぁ。ずっとこんな身体じゃ‥たまったもんじゃねぇ」
「そうですな‥」
トイレの際も不便だった。立ちション出来ないのだ。個室を使うしかない。
あいつの言う通りいよいよ策を考えないといけない。ただもうあんなウブな反応をされるのはご免だ。身体中見られるのも。
「このまま風呂に入れねぇ。話をつけてくる」
またヘボコーチ共に相談し、誰も入れない時間を作ってもらう事にした。清掃中と看板を出す。
「鬼、どうしたんだい?」
「いや‥」
今日も練習に来ないという事は寝ても治らなかったという事だ。さすがに心配にはなるが、本人はあの態度だ。
結局平等院のいる部屋へまた訪れた。
「平等院」
「‥何しに来た」
今度は戸を開けてくれた。
「入るぞ」
どうするつもりだと尋ねたら知らねぇの一点張り。
「きっかけはあったのか?」
「ない。朝起きたら変わっていた」
「そうか‥」
「良い案でも持ってきたんじゃねぇのか」
「‥二人なら案も二倍出るってもんだろ」
「なら捻り出せ」
「お前な‥」
今度は鬼は最初の時みたいに見てこなかった。少し安堵する。
「こういうの漫画でしか見たことねぇから漫画の展開になっちまうけどよ‥」
「くだらねぇ」
「そうとも限らねぇだろ。藁にも掴む思いっつーか、いちよう聞けよ」
鬼はハッとして喋らなくなった。
「言わねぇのか」
「あぁ〜‥お前の言う通り参考にならねぇかもな」
「は?なんだ急に。どういう事だ」
「なんでもねぇ」
「ふざけてんのか鬼」
言える訳ないと鬼は思った。
「悪ぃ。違う案を考えっから」
「ちっ‥」
鬼は言わないつもりなのかと分かると、平等院は明らかに不機嫌になる。
「手を出せ」
「?」
言われるがまま手を出しそうだった。
「何の真似だ」
「シェイクハンド。力があるって言うぜ?漫画の話だけど」
だんだん苛立ちが沸点へと振り切りそうだった。
「もういい」
「待てよ。そう何でかっかしやすいんだよオメーは」
鬼は女性の身体だから触ってはいけないと分かっている。理解はしているがアクションを起こさねば何も変わらない気がした。
「お前は誰となら握手できんだよ?」
「‥それ以外を考えろ」
「だいたいこういう症状は第二の人物によって治るケースが多いんだよ」
「‥」
「治してぇなら我慢するこったな」
「‥」
平等院は危機的状況にようやく感じた。
「どうすんだ?」
「‥‥」
握手を、するのか?目の前の奴と。デュークが練習から戻ったら試せばいいのではないか。
鬼を見つめ真っ直ぐ見つめ返され、何故か怖気付いている。
平等院は拳を握っていて、鬼は目を泳がせた。
「強要するつもりは毛頭ねぇ。あとは相手は誰にするかお前が考えろ」
「‥‥」
「治るといいな」
鬼は立ち上がった。
「?」
「待て‥」
手を出す平等院に鬼は驚いて言葉を失ったが、少し笑って手をしっかり握り引っ張って立たせた。
「‥」
それだけの事だ。確かに日常ではあり得なかったがたかだか手を握られてるだけのもの。
そういえばこいつには肩くらいしか触られた事がなかった。手の感触を生々しく感じる日が来るとは思わなかった。どうでもいい事を思い出すくらい思考が巡る。