ロイアイ小説U

□人間姫 前編
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リザは、青い海へと駆け出した。








いつものように家を出て、海で素潜りをする。


それが好きなようだ。


毎度毎度彼女はメイドの反対を押し切りながら
あるいはこっそりと豪邸を抜け出して、いつも部屋の窓から見えるこの近さの海へ泳ぎに来るのだ。







お嬢様である彼女は今まで沢山の習い事をさせられてきたが、水泳だけが今も活きているらしい。












ざばっ


「ぷはっ」




長く美しい金色の髪が頬にべとべとと張り付くことも気にせず、息を深く吸うとリザはまた潜った。







ゴーグル越しに見る海の世界はリザにとってとても魅力的なものだった。


色とりどりの魚や珊瑚礁、見渡す限りコバルトブルーの世界。輝く世界。





(なんて美しいのかしら!)






自分の生きている地上の世界では決して見ることのできないものばかり。



何度見ても感動する、なんて思いながら彼女は泳いでいたのだが。








(…ん?)





だいぶ泳いだところで、遠くの岩の上に何かがあるのが分かった。


それは、大きさからして魚ではない。だが、イルカなどでもない。


ひらひらとひれらしきものを揺らしているが、岩の上に横たわっているあの姿は…








(人!)




確かにそれは人間のかたちをしている。黒髪の人間だ。

溺れてしまったのだろうか?




急いで側まで行くと、リザはその正体に驚愕した。






思わず声を出しそうになった。







人のかたちをしているそれは、























人魚だった。








それも、昔童話で聞いたことのある人魚のお姫様なんかではなくて、男性。


眠っているのか眼を閉じて気持ちよさそうにしている。

童顔で、漆黒の髪と青い尾びれをゆらゆらとさせている。





目の前のすべてを一瞬リザは夢かと疑ったが現実である。








すると。






「そんなに見られていたら照れて眠れないのだがね、お嬢さん」




(喋った!!!!!)





興味深々に、いつの間にかずっと見つめていたのだろう。

人魚は目を覚まして体を起こした。


そして微笑みを浮かべながらリザを見た。






「人魚を見るのは初めてのようだな。そこまで不思議かね?我々からすればひれのない人間の方がよほど不思議でたまらないけれど」



彼は人間を怖がっても驚きもしていない。


リザは何がなんだかわからなかった。







初めてみる変わった、変わりすぎた生き物にだんだん恐怖を覚えたリザは 逃げなくてはと感じた。

ぐるりと方向転換をしたそのとき、思わず足をつってしまった。



(しまった!)



海で足をつるなど今までしたことがなかったため驚き、思わず口を開けてしまう。


その途端泡がこぼれてあふれだし、息ができなくなってしまった。




「大丈夫か、君!おい!」






そしてそのままリザは意識を失ってしまった。
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