ロイアイ小説T

□It's rain
1ページ/1ページ



もうすぐ梅雨が始まる

私のイヤな季節













「中尉」


「はい」



曇ってきた四角い空を見つめた後、私は中尉に向き直る。

「今日は送っていってくれるか?」

彼女も同様に空を眺め
私の言いたい事を悟ったらしく、返事をして車を取りに行った。

そう、今日から梅雨なのだ


それは同時に
私の長い長い休暇の訪れを意味した。










「大佐は明日から長期休暇に入られるのですね」

運転中 後部座席をバックミラー越しに見ながら
中尉は小さな声で言った。
こころなしか、少し寂しげに聞こえた。

「ああ、私はどうもこの季節は無能だからな」

皮肉そうに笑って言った

中尉が微笑んだのが見えた



「君も休暇をとらないか?」

「いえ。私は大佐の分の仕事を努めるつもりですから」

……やっぱり そっけない

というより、真面目なのだ。




「あ…」

そこで彼女はふと顔を上げた。

雨が激しくなってきた。
気付けば雷も鳴り始めている。

「これでは前が見えんな」

雨が凄まじくてフロントガラスが見えない。


仕方なく中尉は 車を人影のない
道路の片隅に停めた。

そして私達は2人きりの車内で
雨がやむのを待つことにした。




しばらく静かな空気が流れた。

その沈黙を破るように、私は中尉より先に声を発した



「このまま雨がやむまで
ずっと傍にいてくれるか?」








ああ、何て変な事を言うのだろう私は。


雨がやむまで傍にいる


それは彼女の意思関係無しに
当たり前の事ではないか。

そもそも、この状況だとそうせざるを得ないのに。


…きっと雨のせいだ。
こんな雨のせいで思考判断がおかしくなっているのだ。


その言葉を不思議に思ったらしく
中尉は心配そうに
「どうされたのですか」と聞いた


「どうもしないさ」



ただ…







「ただ、こんな雨だと 
消えてしまいそうで怖いんだ」

「何がですか?」







「君が」












中尉は驚いたように目を見開いて 
真っ直ぐに私を見た

そして優しく私の肩を両手でおさえて 囁くように言った





「私は消えたりなんてしませんから
 何があってもずっと 貴方のお傍にいます」



その言葉に 不思議な位安心した。

さっきから根拠なく続いていた不安が少し失くなった気がした

私は 急に失くなった不安に震える声で

「何故かな。雨に君が連れ去られるかもしれないと考えてしまうんだ」

と言った。

そして確かめるように彼女の白く細い手を握った。

中尉は驚くわけでも怯えるわけでもなくただ握り返してくれた。

「貴方が弱気になってしまうのは 雨のせいですか?」




そうだ。

自分の力が何の意味も持たなくなった状況だと、今まであった「誰かを護る自信」や「敵に立ち向かう勇気」や「大切なもの」、全て連れ去られる気がしてならないんだ。

でも 本当はそんな事を君に知られたくないんだがね。



今はただこの雨を理由にして
君の事を確かめ続けたい。

君に触れたままでいたい。









君に許して欲しい。


そして

君が雨に連れ去られる前に












私が君を連れ去りたい。

















今はただ、この雨を理由にして。





end.




久しぶりの更新になりました!!

っていっても、結構前に下書きしてたやつなんですけど(^^)


次こそは、Perfumeの「I still love U」を元にした、リザ視点のお話を更新したいと思っています。



09.09.29

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ