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□order2 「レイ・バレンシア」
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カフェの店長を引き受けたクリスが、手間取りながらも何とか1、2週間でカフェを切り盛り出来るようになったのは、昔親のカクテル作りを見たり店の手伝いをしていたおかげと言えるかもしれない。
もともと頭は悪くないクリスの今のところの心配は、従業員が一人しかいない事と、その従業員がとてつもなくバカで大食いだという事だ。
「オイッ、ロイズぅぅ!!テメーまた材料食ったろ!!」
「おやつ」
「別におやつだろーがランチだろーがブランチだろーがどーでもいいんだよ!いいか、この冷蔵庫は客に出す用の食材が入ってんの!」
「・・・!」
「何衝撃の事実みてーなカオしてんだアア!!どうりで堂々とつまみ食いすんなーと思ってたんだよ!」
「次から客にバレないようにします」
「だーら!そーゆー問題じゃねェっての!!材料が減る事事態が問題なんだよ!つーか今の言葉聞くとまさかお前客の前で・・・!」
全く学習能力の無いロイズの教育がもはやカフェの切り盛りより困難な状態であり、クリスはとにもかくにも従業員かアルバイトを募集しなくてはと内心焦っていた。
勤務終了後のカフェの一室で、クリスとロイズはミーティングをしていた。
「・・・貼紙はできねェ」
「何でだ?」
「何でだってお前・・・俺達の仕事が、法律的にも不利な状況にあるって事ぐらい、お前にもわかんだろ?むやみやたらと宣伝できっかよ」
「・・・そうか、じゃあ・・・・・・どうしよ」
「それなんだよな。危険な仕事を受け入れた上で、ココで働きたい奴をどうハントするか・・・」
「ハント?ハントなら俺に昔よくダチが“やってくれやってくれ”って言って来たぞ。結局ハントが何かはよくわかんなかったけどな」
「お前それガールハント頼まれてんだよ!女ハンティングして来いって懇願されてたんだよ!!」
「じゃあ女呼んでくりゃいいのか?」
「そうして欲しいトコだけどちげーよ!今は働き手だ働き手!」
「・・・そうか、じゃあ・・・・・・どうしよ」
「無限ループ!?」
もはや進展が得られないと結論づけたクリスが、とりあえず今日は引き上げようと荷物をまとめ、ロイズに帰るよう促した。
「んじゃお疲れ。さっさと出るぞ」
「おう。腹減ったし帰る」
2人が店を出てblack・cafeに鍵をかけると、クリスは鍵を鞄に突っ込み、店を後にしようとした。
と、2人の前を誰かが通り過ぎる。クリスは首を傾げた。もともと、人通りが少ない上、薬物の関与があった場所なので、この辺りを人が夜中に、それも一人で歩くという事はとても珍しかった。
しかも、その人物。
「・・女・・・か?」
暗くてよく見えなかったものの、細身の体にブロンドのショートカットの髪を後ろで束ねた姿は、どうやら女性のようだった。
「オイ、ロイズ。あれ女だよなあ」
「そうじゃねーか?」
「危なくねーか?こんな時間に、こんな場所で・・・何してんだ」
「さァ、確かに珍しいな」
2人が言い合っているうちに、その人物の背中がだんだん小さくなっていく。薬物取締役としてカフェを任されたクリスは、店の近くで事件が起きる事は自分の立場が危なくなるという事を、ロイズとは違って理解していた。
だいたいが、ここいらで女に何かあったら後味が悪い。もしかしたら、あの人物事態が危険人物である可能性も、無くも無いのだ。
一応、何も知らずに歩いている可能性を考えて、クリスとロイズは声をかける事にした。
小走りで、その人物に追い付く。
「あー、すいませんそこの人」
「・・・?あ、はい?」
クリスが予想していた通り、その人物は一瞬警戒して、そしてその心配そうな表情のまま対応した。まぁ、夜道で声をかけられたのでは無理もない。どうやらこの人物、危険人物ではないようだ。
振り向いたその顔は整っていて、左の眉が隠れるように流れた前髪が影を落としていた。
「あの・・・怪しいモンじゃないスよ。ただこの辺は物騒だ、あんまり夜一人で出歩くモンじゃないぜ。ましてや女性が一人じゃ危険極まりねェ」
なるべく相手に不信感を与えないようにクリスはそう告げた。
最初は、素直に首を縦に振りながら聞くという大人しい対応だったのでクリスも安心していた。が、終盤なぜかその人物がむっとした表情になった気がしたので、クリスはその人物の次の言葉を待った。
「・・・あのォ」
言いかけた時、クリスの後ろで銃をクルクルと人差し指でもて遊ぶロイズの姿を見て、その人物は表情を変え、ザッと後ずさった。
「・・・チャカ!?」
チャカ。銃の隠語だ。確かにそう叫んで、その人物は上体をかがめた。警戒心をあらわにしたその人物とクリス、そしてロイズの間にシンとした重い空気が流れる。
――その沈黙は、ロイズが持っていた玩具のピストルが、万国旗を吹き出すポンッという音でやぶられた。
「・・・・・あ」
呆れ顔のクリスと、何も気にしないロイズの表情を見て、その人物は情けなさそうに笑った。
「・・・あ、はは・・・す、すいません・・・」
「・・・いや、驚かせて悪かった。オイッロイズお前のせいだろが!」
「わりーわりー」
思いがけず和やかになった空気の中、その人物は思い出したようにはっとした表情をして、クリスに向きなおった。
「・・・あ、ちょっと!言っときますけどねェ、俺は男ですよオトコ!!」
「・・・・・あ!?」
つい驚いて、クリスは声を出してしまった。
今まで女として認識していた分、その予想外の言葉はなかなかに威力があった。
しかし、よく見れば中性的な顔立ちをしていて、自分より幾分背は低いが女としては若干高めだ。そして、声も低くはないが女らしい声という訳でもない。
・・・なるほど、この人物、かなり女っぽいが男と言われれば男に見えなくもない。本物の男に対して、この言い方は失礼だとは思うが。
「・・・そ、そうか悪いな。暗くてよく見えなかった」
「・・・いいですけどね。たまに昼間でも間違えられますから・・・」
少し拗ねたようにそう言ったその人物は、もう一度確認を取るように言った。
「俺はレイ・バレンシアっていいます。男です」