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□order4 「新人指導?」
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 ある曇り空の平日。black・cafeのドアには「close」の看板がかけられていて、なるほど鍵もかかっているが辺りに人通りはあまり無く、そのカフェの独特の雰囲気に混ざる物は風の音ぐらいであった。

 客が誰一人としていない店内に、従業員の姿が確認できる。

 「はい、ジーナちゃんの頼んでた武器来たみたいだよ」

 「キターーー!」

 レイは、何やら倉庫のような場所から、重量感のある布でくるまれたそれを持ち、スカート型の制服を着たジーナの元に運ぶ。そしてレイはジーナの感嘆の言葉に少しびっくりした。

 少々ジーナの反応につっこんだ後、レイは落とさないように優しくジーナにそれを持たせる。

 「はいこれ。あ、ちょっと重いかも・・・」

 「おっ・・・と」


 丁寧に荷物を受け取ったジーナは、布を取っていいかとレイに尋ねた。

 「うん、俺にも見して」

 このカフェで働くに当たって、戦闘に用いられる武器はけっこう重要なポイントとなる。

 なにせ普通のカフェでないこの店に、女性であるジーナが仲間入りし、そのジーナがどんな武器を注文したのかとレイが“わくわく”といった表情でジーナを促す。
 ジーナはその武器を覆う布を、そっと下に引いてするりと取り払った。

 途端に、レイがぎょっとした顔をした。

 ジーナの手には、布が取り払われ姿をあらわにした武器が握られていた訳だが、その武器が黒く不気味な“大鎌”だったためレイは驚いたのだった。

 「ジーナちゃんはまーたこんな怖い武器チョイスしてェエ!」

 レイの悲痛な声を聞いたジーナは、
 「えー・・・可愛いだろ?これ」
 と大鎌に匹敵する不気味な笑みを浮かべるだけだった。

 ジーナが店で働くようになって、今ではレイも「悪趣味だよジーナちゃん」などと気軽に言える仲になり、それに対し「うるせー」などの喧嘩腰な対応をするジーナも、遠慮という他人行儀な空気を感じさせないまでに馴染んでいるように聞こえた。

 もともと人見知りではない、と言えば嘘になってしまうジーナもクリス、ロイズ、レイの面子に慣れたようだった。

 「そーいやジーナちゃん、クリスさんとロイズさんの事、呼び捨てにしたっしょ?」

 何と無くレイが聞く。

 「あ、うん。いやね、私もけっこうバリア張っちゃう人だから最初は敬語使ってたんだよ年上だし。でも敬語は面倒だとか言われたし、なんかアイツらやってる事言ってる事バカみたいなクオリティだし。うん、普通にタメ口も使えるようになったぜ」

 「はは、まぁ俺は敬語グセついちゃったからね」

 軽く笑って言うレイは更に付け足した。

 「ジーナちゃん、皆と仲良くなれたみたいでよかったよ」

 そう言われ、ジーナは顎に手をあて目線を落とし考える仕種をした。

 「ん・・・仲良く・・・なれたのかもしれない、な」

 ジーナは、どうも十分に心を許してから“仲良し”だと認めるタイプのようで、それに感づいていたレイはその心の距離の発展を良く思い、ニコッと愛想の良い笑顔を浮かべジーナの言葉を拾った。

 「自信なさげだなー。あ、そういえば」

 レイが思い出したように言う。

 「クリスさんに、ジーナちゃんを連れて来いって言われてたんだった」

 「そうなのか?」

 「こっちこっち」

 そう手招きして歩きだしたレイはスタッフルームに入った。それに続くジーナを案内しながら、レイはスタッフルームの奥に目立たなくついているドアを開けた。そこには、下に続く薄暗い階段があった。

 何やら、普段死んだようになっている目を珍しく輝かせながら、しかし無言でジーナはレイの背中を追って下へと向かった。


 「ここだよ」

 階段を下り切り、さらにそこにあったドアをレイがゆっくり開けた。

 そこは薄暗い、そして広いトレーニングルームのような場所だった。
 統一感はないが、射的のための的やサンドバッグ、あとは何に使うのやらよくわからない道具が点々としていて、ジーナがトレーニングルームを見渡すが早いか否か、レイとジーナの前に、ドサッと音を立てて何かが落下して来た。

 最初は何だかわからなかったが、少し離れた場所にクリスがいて、その姿が背を向け右手を大きく振り切って姿勢を低くしたポーズだったため、2人は落ちて来た物が、クリスが武器を扱う練習の為に切断したワラの束だという事をすぐ認識した。

 クリスの武器は、簡単に言えばトンファーのような物だ。
 刃が肘の方に向かった大きめの刃物を右腕にベルトでとめるように装備して、腕を振ったり、肘鉄のようにして上から攻撃したりと、リーチは少々小さめだか扱いやすい武器だ。

 棒で立てられたそのワラの束を、スパスパと豪快かつ迅速に切断していくクリスを、感心したような目で見つめるジーナとレイにクリスが先に気づいた。

 「おぅ、来たな」

 「おー。・・・スゲーなあんた」

 「おめーもまた悪趣味な武器をチョイスしたな」

 ほぼレイと同じ感想を述べるクリスのずっと後ろに、ロイズの姿もあった。

 ロイズが腰から拳銃を抜き右手で回したと思った瞬間、ロイズは銃声を3つ響かせた。
 その直後には3つの的全てど真ん中から煙りがあがっていて、拳銃の煙を吹き消すロイズを苦笑いのような表情で見ながら、レイは「・・・ね、皆バケモンでしょ?」とジーナに言って為息をついた。

 「よし、ジーナ」

 クリスが武器を腕から外し、タバコの煙を吹きながらジーナに向き直った。

 「お前も武器の練習」

 そう言ってコンクリートのブロックをジーナの前にゴトリと置いたクリスは、少々戸惑うジーナの顔をちらりと見た。

 そして「まぁ好きなようにココ使えや」と言った。と、レイがクリスに慌てて声をかける。

 「あ、あのいきなりじゃ危なくないですか!?けっこう重かったですよあれ!」

 「死にゃしねーだろ」

 心配をしていないと言うよりは、大丈夫だろうと適当に考えているクリスにレイが反論した。

 「で、でも女の子ですよ!?いくらジーナちゃんがしっかりしてそうでも、さすがに武器振り回せるかどうかぐらいはチェックした方が・・・」

 と、ここでレイの言葉は“ガシャア”という耳障りな騒音で途切れた。

 何事かとレイが振り向くと、そこには両手で大鎌をブロックに向け振り下ろし、そしてその衝撃で粉々になったブロックを冷たい表情で見下すジーナの姿があった。

 言葉を失うレイとは対照的に、「お、なかなかやるようだな」と落ち着いた態度のクリスはまたタバコの煙を吐き出した。
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