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□order6 「欠落バトル」
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定期的に、それ程高さの無い黒いヒールの音を響かせながら夜道を歩くジーナの姿があった。
こうして見ると、つい普段忘れかけてしまっている美しさが感じ取れる。
薔薇の香料が含まれたヘアコロンの香が長い髪から零れる度に、性格とは違った女性感が目立った。
肩にかけたバックを背負い直す動作ですら綺麗に見える。
聴いている音楽がヴィジュアル系とアニソンの個人的なメドレーで無ければ、細部に至るまでが完璧に近かった。
そんなジーナの背後にじりじりと近づく、一つの影があった。
イヤホンから流れる、ボーカルの「ドラマチックさに欠けてる別れもよしとしてバイバイ」の声のせいで、ジーナはその重圧な足音に気がつかなかった。
「おはようございまーす」
朝。レイがblack・cafeの扉を開け、軽快な鈴の音と共に店に立ち入った。
2、3歩進んだ所で立ち止まる。
「・・・あれっ、今日はクリスさんより早かったみたい」
勤務態度が真面目なレイは、時たま店長であるクリスより早く出勤してしまう事がある。
今回もその例外では無いと思ったらしい。
「っふぁ〜〜、んじゃ食器でも片付けよ・・・」
独り言を言い欠伸をひとつすると、レイは店内をきょろきょろと見回した。
と、その時、地下のトレーニングルームに繋がる扉が唐突に開き、そこからは遅刻常習犯のロイズが歯を磨きながら現れた。
「うわぁっ!?」
「あ、レイだ。はよー」
「お、おはようございます・・・今朝は早いですね?」
少々驚いて言ったレイに、ロイズは寝起きでも変わらない無表情で対応した。
「いや、いつもより寝てた」
「はい?」
よくわからないといったレイに、ロイズが補足する。
「いや昨日さ、ケータイ忘れてここに来たんだけど何か帰るのめんどくなって、その辺の銭湯行った後トレルーで寝たんだよね」
「は!?何してんすかアンタ!」
言われて見れば、ロイズは私服だった。ペンキを散らしたような柄のスタイリッシュなパーカーにジーンズという、シルバーアクセが生えるカジュアルなタイプのファッションだ。
「つーか何ちゃっかりお泊りセットみたいなの持ち込んでんですか!?その歯ブラシ自分のでしょ!」
「あ、バレた?」
モゴモゴと歯ブラシをくわえたまま受け答えた直後、口の中の液体をロイズは水道に歩み寄って処理した。
はぁ、とため息をつくレイに、口を濯ぎ終わったロイズが今度は質問をした。
「お前は何でいるの?」
「は?」
「しかも制服で」
「え、どういう事ですか?」
またしても状況を理解出来ないレイに、ロイズが洗顔で濡れた顔をタオルで拭きながら振り向き言った。
「今日、定休日」
「え!?そうなんですか!?」
初耳だった。
「聞いて無いか?」
「聞いてねーよ店長コンチクショー」
嘘だろうといったニュアンスを孕んだやれやれ顔のレイに、ロイズが話を続ける。
「・・・昨日、俺がコッチに来た時には、あいつ何人が片付けてたらしい」
「・・・え」
「ケータイ見つけた時に着信があって、忙しくなるから明日は休みだとか何とかって。レイ聞いて無かったのかー」
「えぇ全く」
にっこりと悪意の篭った笑顔でそう言うと、レイはまたため息をついてしまった。
「わかるわかる、俺も昔しょっちゅう祝日に学校行った」
「一緒にしないで下さいよ!」
聞いて無かったんですから!と怒って、レイは不機嫌そうな顔で俯いた。