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□order2 「レイ・バレンシア」
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 「・・・レイか、少し不思議な奴だったな」

 「そうか?」


 翌日、クリスとロイズはいつものようにカフェの勤務に勤めていた。
 さほど客は多くないものの、休憩がてら寄る人や、たまに来るロイズ目当ての女の客で、さすがに2人という人数ではかなり忙しい物だった。

 その前に、ロイズがきちんと仕事を出来ればなんら問題は無いんだが、とクリスが心の中で溜息をついた時、また、カフェのドアを客が開けた時の高い鈴の音と、ドアの軋む音が鳴った。

 「いらっしゃいま・・・」

 クリスが言いかけて言葉を止めた。
 入って来た客は、ブロンドの髪の細身の男性。そう、昨日の夜クリスとロイズが出会った、レイと名乗ったあの男が入って来て軽く頭を下げたのだ。

 「あ、お前昨日の〜」

 「どうも」


 丁寧に返事をすると、レイはクリスに歩み寄って、愛想の良い笑みを浮かべた。

 「・・・あの、今ちょっといいですか?」

 「あー・・・今か?」

 クリスはちらっとロイズの方を見た。
 ロイズは、客のオーダーをかなりマイペースにメモしている所だった。まぁ今なら何とかなりそうだとクリスは判断した。

 「・・・ロイズー!何かあったらすぐ呼べよー!」

 「おう」

 「・・・んじゃ、こっち来い」

 「あ、ハイ」

 クリスは、とりあえずレイを控室に通す事にしてレイの先を歩いた。




 「んで、今日はどうした?」

 「あ、まずはこれを」

 「?」

 椅子に座らされたレイが、バックから何かを取り出す仕草をしたので、何を出すんだとクリスが覗き込むと、レイはニッコリとしながらクリスに見覚えのある物を取り出した。

 「・・・あ、あーー!」

 「そちらのでしょう、コレ」

 「そうそう俺のだ!落ちてたのか?」

 レイが取り出した物は、革製の古い財布だった。

 「はい。昨日財布を拾った時、交番を探しても見つからなかったので、悪いとは思ったんですが中見ちゃいました。そしたら、クリスさん?の身分証明書が」

 「あぁじゃあ俺達と別れた後に見つけたんだな!悪いな、財布無くしたらヤバかったよ俺ァ」

 「ですよねぇ」

 定期も鍵も、財布とは別に鞄に入っていたので、クリスは今まで財布を損失した事には気づいていなかったようだ。
 とは言え、所持金やカードなど大切な物がいくつか入っている財布をこのまま盗られるか亡くすかしていたら、損害は大きかっただろう。

 「いやホント助かったぜ、どうだ?コーヒー一杯ぐらい・・・」

 「あ、ちょっと待って下さい、えっと・・・クリスさん。まだ一つ目の話しかしてません」

 「あ?まだ何か」


 椅子から立ちかけた所を呼び止められ、別に機嫌が損ねられた訳ではないが、いつもの癖で眉間にシワを寄せてクリスは再び椅子に座り直した。

 クリスがレイをちらりと見ると、レイは少し真剣な表情になりこう言った。


 「今度は、薬物取締役としてのクリスさんにお話があるんです」

 「・・・・・あァ?」


 クリスが、少し目を細める。

 「財布を勝手に見たのはすいませんでした。でも、それでクリスさんに財布が戻ったんだし許して下さい。それで、その、財布のポケットの・・・真ん中のポケットですかね?“薬物取締役クリス・ガーター”って名刺がありました」

 「・・・」

 「このカフェもその為の物でしょう」

 「・・・お前、何でそこまで」

 「裏じゃけっこう知れた話ですよ」


 ゆったりと話を続けるレイに、クリスはさらに目を鋭く尖らせてそれを向ける。
 数秒の間。一瞬クリスは、昨日の夜の沈黙を思いす。

 レイの穏やかな視線と、クリスの刺すような視線が交差する。

 ・・・と。次第に、涼やかだったレイの顔が、少しずつ崩れ始めた。
 目を大きくするのと同時に眉は下がり、口は少し開き不安しか無い表情になった。しかも何か冷や汗のような物まで頬に流し、例えるなら今のレイはまるで怯えた犬のようだ。

 途端に、レイがガタンと音が出る勢いで姿勢を直した。と同時に、必死に謝り始めた。

 「すすすすすすいませんんんん!!!ごめんなさいホント失礼しましたァア!色々と言っていいんだか悪いんだかも知れない事をベラベラとあわわわぁ!!」

 「・・・・・へ」


 先程とは打って変わった状況に、クリスはつい間の抜けた声を出してしまった。
 もしかしたらこの男、気が小さいのに“頑張って”いたのかもしれない。

 まだ何かを喚くように謝りながら頭を下げているレイに、やはりクリスは呆れたような表情で聞いた。

 「・・・で、結局何が言いたいのお前」

 「あっ、ハイ!それなんですけど!」

 クリスに聞かれ、ガバッと顔を上げたレイが、幾分申し訳なさそうに解答を始めた。

 「あの・・・俺を雇ってくれませんか?」

 「はぁ!?」

 「あ、いやごめんなさい仕事探してて・・・っていうか薬物取締っていうのに興味というか、こーゆー所なら雇ってくれそうというか」

 「・・・ほォ・・」

 クリスは考えた。コイツは闘えるのか?いや無理だ。
 しかし今は絶賛人手不足中。とりあえず、ダメもとでクリスは聞いてみる事にした。

 「・・・で?戦闘経験は」

 「戦闘なら、少しは」

 「そうなのか?」

 意外にさらりと答えられたクリスは、つい聞き返してしまった。
 甘く見られていると感づいてしまったのか、レイは少し気まずそうな表情になった。

 「・・・・それで、お前・・・」

 クリスが続けようとしたその時、何かが割れるような、そう、ロイズが重ねた皿を落とした時の耳をつんざくようなガシャーンという音が聞こえて来て、クリスとレイは肩をビクリと上げて目をつぶった。


 「クリスークリスー、何かあった」

 相変わらずマイペースに被害の報告と手助けの要求をするロイズにクリスは舌打ちし、そしてレイにカフェの白いブラウス、黒いベストとネクタイとズボンを一気にボフッと押し付けた。

 「・・・とりあえずお前はコレ来てロイズの片付けを手伝え!俺は接客にまわる!!」

 「え!?あ、はい!」


 慌てて更衣室のドアを開けて入るレイを確認した後、クリスはカフェに飛び出して行った。





 「・・・採用」

 結局、着替えたレイが思いの外テキパキと片付けをしてくれた事と、ロイズと2人では絶対に危険だとクリスに骨の随まで知らしめたロイズの不器用さに免じて、カフェの制服を身に纏ったレイはそのままカフェの従業員となった。

 「ありがとうございます!あ、改めましてレイ・バレンシアです、よろしくお願いします」

 「かてーな」


 手伝って貰ったにもかかわらず、キッパリと言い放ったロイズに対してレイは「えぇ〜・・・」と声を漏らした。
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