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□order4 「新人指導?」
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「ホラな、今は女だってやるもんだろ?オメーも負けてらんねーぞ、レイ」
そう言ってクリスは、そこにあった竹のような棒をレイの頭上に投げた。
「ぅわ!」
即座にレイは内ポケットから、細身のナイフを2本取り出し両手に1本ずつ持った。
そして、舞うように手をクロスさせつつ竹のような棒を一瞬で3分割させ、スタッと着地したレイはしばし片膝立ちの姿勢を保った。と、直後レイの後ろに切断されたそれが“カランカラン”と音を立て落下した。
それを合図に、レイは下に向けていた顔を、抗議するようにクリスの方に見上げた。
「ちょっとクリスさん、やめて下さいよ不意打ちは」
「バーカ、敵ってのは不意を打つモンだ」
そりゃまあそうですけど・・・と、立ち上がったレイは、はっとしたようにまたジーナに話しかけた。
「てかジーナちゃん!?なぜキミはそんなに戦闘能力高いワケ!?そりゃまだ素人だけど、普通女の子にアレはなかなか出来るモンじゃないでしょ!?」
「まぁ普通の女の子よりかは筋力あるかな?趣味で鍛えた事もあるし・・・」
「やっぱなんか変だ!普通の女の子と違う何かがある!てか鍛えたってジーナちゃん腕とか足細いじゃん!!」
「一見な。でも歯磨きにつかう筋力で鏡に映る腕のスジが見えた時の乙女心がお前には」
「わー聞きたくない聞きたくない!」
レイが耳をふさいだ時、クリスが言った。
「よし、手合いでもしてみるか」
「・・・手合い?」
そう繰り返したジーナに、何やらプラスチックで出来た長細い茶色の筒がクリスから投げ渡された。
「黒いの無いの?」
「贅沢言うな。・・・オイ、ロイズ」
「んー」
クリスは今度は、ロイズに玩具のピストルを渡した。中から小さい弾が出て来る、簡単な作りの物だ。
「いいか、お前らが持ってるのは玩具だが、本物と仮定して一度でも相手に接触させれば勝ちだ。ま、ゲーム感覚でやってみろ」
「あ、あのクリスさん」
レイが説明に割って入った。
「ロイズさんより、俺のが初級者向けじゃないですか?いくらなんでも、強さじゃジーナちゃんがロイズさんとかクリスさんに並ぶ訳ないし・・・」
この意見はなかなか論理的ではあったが、クリスの「戦闘能力が高い方が手加減も上手い」という、これまた最もな意見に、多少の心配はありつつもレイは承諾した。
「なんかよくわかんねーけど、練習相手になればいいんだろ?」
何やらホットドックのような物を食べながら玩具のピストルをクルクルと回すロイズに、レイが「ちゃんと手加減して下さいよ」と念を押すと、「関係ねーよ」と冷めた表情で言ったジーナ。そして、またレイの「ジーナちゃん、ムキになんないの!」という悲痛な叫びが飛んだ。
「んじゃ、当ててみな」
「一勝負よろしく」
ロイズとジーナが簡単に言葉を交わすのを見届けた後、少しの間を置いてクリスが「始め」と合図をした。
触発されたかのように、無表情な2人は一気に距離を縮めた。
ジーナはまず、冷静な性格から、様子を見るためにいったんは筒を振らなかった。
ロイズがガチャリとピストルを構え、銃口をジーナに向けたのを即座に感じ取り、ジーナは身を屈めてそれを避けた。
「ほー」と感心するクリス。ジーナが立ち上がりざまに筒を振り切り攻撃する。が、ロイズはそれをバク転で余裕しゃくしゃくといったように避ける。
舌打ちをし、今度は突くようにジーナが筒を前に出すとロイズは顎を引きギリギリで避けた。
何度か斜め、横と筒を振るが、ロイズは涼しげな顔でそれを交わし、ジーナもロイズが打つピストルにはまだ一度も当たってはいなかった。
続けて、ジーナの足元に狙いをつけたかのように銃弾が飛んで来る。
「うわ」と声を漏らし、それでも転がり込むようにしてジーナは何とかそれをかわした。
その反動を利用し、ジーナはロイズの後ろに回り込み、ロイズの背後を一瞬だけ征した。
よし、とジーナは筒を構え、今にもそれをロイズに接触させようとした。
――が。
おそらくは手加減していたのだろう。ロイズが、筒を振ろうとしたジーナの額に銃口をくっつけ、そしてその途端に2人の動きはびたりと止まった。
「・・・お前すげーな」
少しの重い沈黙の後、ロイズはそう言ってピストルの引き金を引いた。
「あだっ!」
パチンという、あまり猟奇的ではない音が沈黙を破り、同時にジーナは敗者となった。
「あー・・・ちっくしょー!」
と、先程撃たれた額を押さえながら悔しがるジーナにレイが拍手をした。
「いやいや、十分すごかったよ!?2人共お疲れ様ー!」
ぶすっとした表情で息を切らすジーナをなだめた後、レイは心の中で「俺も特訓しないとなー」とつぶやいた。
「お前何か武道とかやってたか?」
そうクリスに聞かれて、ジーナは「全然」と答えた。
「喧嘩もまともにした事なくて、ただ体育の成績はほとんど5だった」
無表情にブイサインを作るジーナの言葉を聞いて、若いねェとクリスが眉間にシワを寄せた。
そーいや俺いつも一人で掃除とかしてたなぁとレイが言うと、3人に何か可哀相な物を見る目で見られた為レイは「なんスかその目は 」と文句を言った。
「俺、判定いつも良い評価だったよ」
と、そう言ったのは真面目人間レイでもキレ者のクリスでも多才なジーナでもなく、顔と戦闘能力に全てを吸い取られたのではないかと疑いたくなるぐらい頭脳は子供!なロイズだった。
「ぅえええ!?」
露骨に「嘘だぁ」といったニュアンスを含んだ3人の叫び声に、ロイズが切り返す。
「ホントホント。ホラ、あれ結果返って来るじゃん?いつもE判定だった」
「良い評価じゃなくてE判定かよ!!だいぶ落ちぶれたな!なかなかEまでいかねーぞ!?」
「やっぱり成績壊滅的だったんですね」
「ギャップが許せるのはイケメンだけって本当だったんだな」
予想外、しかし納得したように3人は口をついた。それからジーナがクリスとロイズに質問、というか予想をぶつける。
「クリスとロイズ絶対お前ら帰宅部だったろ」
「お、よくわかったな」
「・・・ジーナちゃん漫画研究部でしょ?」
「当てんなチキショー」
「ロイズお前バレンタインに下駄箱からチョコ落ちる経験しただろ」
「多少」
「あークリスさんとかロイズさんとかいいですよね何ですか嫌味ですか」
「あんたも可愛いじゃーん」
「そーゆー鑑賞的な褒め言葉なんていらないんだよォオ!」
「あぁ、いい人止まりの女顔か可哀相に」
「ジーナちゃん今の何?めっちゃ語呂よかったけど今の俺のキャッチコピーか何か?」
「黙れ!私より肌とか綺麗な気がしてムカつくから死ね!!」
「好きでこうじゃねーし!つーか酷いよ泣くよ!?」
「クリス、飯」
「買ってこい馬鹿」
エトセトラエトセトラ。こういうどうでもいい会話で盛り上がれる所が、black・cafeのアットホームさの秘訣だ。
訓練をしていたはずが、何故か学生時代の思い出話で日が暮れてしまったという事は言うまでもない。
order4 「新人指導?」
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