SOS

□待ち合わせ
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不透明

朝になった
起きた
きっと今日も森さんに会うだろうから、昨日の報告書を鞄に入れて、自宅を出る
「行ってきます」
僕は誰に言っているんだろう
でも、彼が少しはにかんだ笑顔で返してくれると思って、毎朝言っている
彼が誰なのか分からないけど
どんな髪で、どんな目をしているのか分からないけど


「こんにちは」
放課後、いつものように部室へ向かう
しかし、そこには長門さんしかいなかった
「涼宮さんたちはどうしたんですか?」
「涼宮ハルヒは朝比奈みくると衣装を買いに行った」
「だから今日は解散で、それを言いに長門さんは僕を待っていた、と」
長門さんはひとつ頷いて、
「それだけじゃない」
「涼宮さん絡みのことですか?」
「そう、でも違う」
「涼宮ハルヒについてだが、あなたについてでもある」
「僕について、ですか」
「待つな、忘れろ。
彼はそう言った。
でも、私はあなたは忘れないと思っている。
あなたは消せさせない。
あなたの行動で彼は帰ってくる。
つまり、あなた次第」
「は?」
何を言ってるんだ彼女は
なぜ僕なんだ?
何を言いたいんだ?
彼は誰だ?
待つな?僕が?彼を?
忘れろ?僕が?彼を?
消す?誰が?彼が?
何かを忘れているのか、僕は
何を?
彼?
おはようございます、と言ったら照れてぶっきらぼうに返すのは誰?
オセロで呆れたように、少し楽しそうに笑うのは誰?
この手を握るのは誰?
彼彼彼彼彼
全部、全部全部全部全部彼だ
彼は、彼の髪の色は、彼の目の色は、彼の、彼の
彼の名前は?

願う、彼の明日を
望む、彼の存在を
欲する、彼の温度を
恋う、彼の姿を

耳の奥の器官の奥の脳の奥底で何かが砕ける音がした
長門さんが何か早口で呪文のように唱える
何かが繋がった

そうだ、彼は

叫ぶ
走り出す
頬が冷たい
体が熱い
なんで、彼を忘れていた?
なんで、彼を待っていなかった?
彼を消したのは彼女
でも、本当に消したのは、僕だ。

「キョン、くん!」

ゼーゼーと呼吸を整えながら叫ぶ
走って走って、いつの間にかあの裏庭に来ていた
彼とお茶を飲みながら話したあの場所
「キョンくん!」
「キョンくん!」
「キョンくん!」
喉が痛い
彼の名前を呼んで痛くなったと思う痛みとは思えなかった
「何が待つなだ、何が忘れろだ…
早く帰ってきてくださいよ…馬鹿!!」


「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」
彼の、柔らかい声が聞こえた
僕が求めていたものだ
頬が冷たい

「キョ…ンく、ん…」


「ただいま」



END

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