小話部屋


□時の螺旋 代償
〜成り代わりシリーズif 学生時代トリップ編〜
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 ハーマイオニーの隣にいる彼を見ると目を細目ながら首をかしげてハリーを見ていた。一方のハリーは明らかに“彼の名前”に動揺してる。制服のシャツ越しにある、指輪をキュッと握り締めて。

「…彼はね、トム・リドル君。スリザリンの監督生で首席君よ。貴方の同室でもあるわ」
「…え?!」

 ハリーは困ったような表情でアタシを見上げた。アタシも苦笑しながら彼の肩を軽く叩く。ハリーは潤んだ瞳のまま目を逸らして俯いた。そっれがもーぅ可っ愛くて可愛くて、アタシの萌えント(←萌えポイントの略よ♪)をつきまくった。

「やーん、久しぶりに見たぁー!!カーワーイー!!」
「ギャアアアァアアアアァア?!兄さん助けて、助けて助けてヘルプミー?!」
「…すまん、今回ばかりは助けない」
「なんでー?!(°□°;)」

 当たり前よ!!だって一年よ、一年!!一年も離れてたのよ?!会えなかったのよ?!寂しくって寂しくってアタシはもうハリー欠乏症よ!!

 そうして10分はハリーを抱き締めてるとハーマイオニーによってベリっと剥がされた。やーん、アタシのハリー!!

「こ…怖かったよぉ、兄さぁあんっ」
「…ったく、ちょっと許すとすぐこれだ」

 アタシ達は置いてかれたままの三人をスルーしたまま一通りのパターンを済ませると、ハーマイオニーはハリーの頭を左手でポンポンと叩く。あれは彼流の愛情表現。家族の様に思っている人にしかしない。専らされるのはハリーだけだったけど『秘密の部屋騒動』以降からはリドルにもやっていた。それが見れなくなって、一年以上…か。

「…とにかく、これでひと安心だな。恐らく喪失中の記憶も時期に戻るだろう」
「うー…戻って欲しいような、欲しくないような…」
「ま、何かあったら連絡……そうだ、思い出した。渡すものがあるから放課後、寮に来てくれ」
「…え?うん…?」

 そうそう、ハリーにも癖があって『ポンポン』をされると『キュッ』てハーマイオニーの腕を抱き締めるの。元の世界で四人兄妹の末っ子だった名残が抜けないみたいで、アタシにも抱き付いて甘えたりする。本人は無自覚の行動だから余計に萌えントなのよね。

 なんてどうでも良いことをつらつらと言ってる間に友達同士でペアを組んで実際に決闘をやってみようって事になったんだけど、ハーマイオニーはオリオンを指名してとっとと行っちゃったんだけど、あら…?仲良かった、かしら?


「んー…じゃあ、ハリー、アタシとやる?」
「えー…めんどくさい」
「めんどくさいって…一応授業なのよ?」
「じゃあやる」

 相変わらず、授業嫌いね…どうしてそれで成績が二位なのよ。器用にも程があるでしょう。
 取り敢えずアタシ達は遊びながら決闘をして時間を潰すことにした。因みにトムくんは色んな女子に引っ張りだこになってて、ハリーは…それを寂しそうに見つめてたわ。まぁ、その度に魔法でコスプレにして気を逸らしてたけどね♪

「───ロン、てめぇ?!何しやがる?!//////」
「やぁあん、よく似合ってるわよー!!」
「ざけんじゃねぇ?!ボカロの衣裳なんかきせんじゃねぇえ?!//////」

 バナ○イスのゴスロリ猫耳はやっぱり怒るワヨねー(笑)






‡‡‡‡‡‡


「…な、長かった」
「お疲れさま」

 お久し振り!お馴染みハリーに成り代わり…いや、転生?まぁどっちでもいいか。とにかく、ハリーになった中身はお姉さんの俺です。あれからいろいろとありまして、俺達三人はヴォルデモートの学生時代…つまり、トム・リドルの時代に来ています。え?何しに来たかって?野暮な事聞くなよ、隣にいる男を更生させに来たんだよ。

「俺、本当に記憶喪失だったんだな…しかも一年も」
「そうみたいだね。でも、記憶が戻って良かったじゃないか」
「まぁなー♪」

 あの後、授業を終えた俺はリド…──“トム”に連れられて校長室に向かった。んで、トムが事の説明をして、やれ確認だの保護者に連絡するだのマダムを呼んで頭が大丈夫が診せるだので結局放課後になってしまった。トムはそんな俺を迎えに来てくれたのだ。

「サンキューな、迎え。でも此処までで良いよ。兄さんとこ行かなきゃ」
「行くって…夕飯は食べないつもりかい?」
「へ?食べるよ?」
「でも、兄さんの所へって…」
「うん。今日はハーマイオニー達と食べる」

 俺がキッパリと言うとトムは驚いたように目を丸くして俺を見つめた。そう言えば、リドルが一年の時にこの時代な蛇寮と獅子寮は仲が無茶苦茶悪かったって聞いたっけ。まぁ…兄さん達がいるから大丈夫だろ。それに、指輪もあるし。

「じゃあ、また寮でな!」

 俺はトムに向かってにこやかに手を振ると全速力で彼から離れた。そして大広間ではなく必要の部屋に向かった。何故かって?だって、トムはリドルだけど、リドルじゃないから。まだ心の準備が出来てないから。


(…早く、割り切らなきゃ)

 俺にこの指輪をくれたリドルは、もういないって判ってる。でも、いきなり同じ顔同じ声で目の前にいたら、泣いてしまう。現に今、俺の頬は涙で濡れている。バカみたいに。

「…必要の部屋に行けば飯も出てくるし、気を紛らわせられるもんも…多分出てくるだろ」

 そんな独り言を良いながら必要の部屋の前に着くと、以外にも兄さん達が扉の前にいた。驚いて二人の名を呼んだ瞬間、ロンに抱き締められハーマイオニーには溜め息を吐かれた。

「…がんばったわね」
「…ったく、やっぱり此処にきたか」

 どうやら俺が早々に根をあげると判っていたらしい。流石は幼馴染み。読まれてました。

「なんで俺、スリザリンなの…?」
「さぁ…?」

 そうだ。まだグリフィンドールなら救いがあったのに…スリザリンで、ましてや同室だなんて有り得ない泣きたい帰りたくない。

「あー、帽子に聞いたら…お前から『スリザリンにして』って言ったらしいぜ?」
「はぁ?!記憶喪失の俺バカじゃねぇの?!つか、なんで思い出せないんだよこの頭っ!!」
「詳しくは判らないけど、メンタル的なものなんじゃないの?まぁ元に戻れたからいいじゃない♪」

 判らないことを考えても判らないんだから、確かにロンの言う通りかもしれない。約一年間の記憶がないし、その間どう過ごしていたのかはポッター一家に暇なときにでも聞けば良いだろう、うん。
 取り敢えず入り口で立ち話ってのもアレなので俺達は部屋の中に入ることにした。部屋に入ると懐かしの和室が広がっていた。そして掘り炬燵が真ん中にでーんっと用意され、テーブルには和食がズラリ。

「…っ肉じゃがー!!」
「…懐かしの和食…」
「あ、やった筑前煮もあるー」

 こうして俺達は久し振りの和食を思い思いに堪能した。食べ終わった後は暫くはダラダラと過ごしていたけれど、エレキギターを弄っていた俺の頭に兄さんが懐かしい物をコツンと乗せてきた。携帯だ。

「…そう言えば、兄さんに預けてたんだっけ。渡すものってこれの事だったんだ」
「まぁな。それに、もう一つある」

 見慣れた深紅の携帯をいつもの定位置にしまうと、兄さんは俺の目の前に白い携帯を差し出してきた。

「──なんで…兄さん、が…?」
「…最後にリドルが、預けたんだ」
「──…そう…なんだ」

 そっか…だから、メールや電話をしても繋がらなかったんだ。


「…預かった日から、電源は入ってなかったがデータはそのままなんじゃないか?」

 俺はゆっくりと右手を上げてその携帯を受け取った。そしてマジマジと眺めて、そっと撫でた。この携帯は今の携帯の先代で、リドルの手に渡る前は所々塗装が剥がれ細かい傷が多かった筈なのに、まるで新品のように綺麗な状態を保たれていだ。それだけでリドルがどれだけ大切にしていてくれたのか判る。でも、もうそのリドルは何処にもいないんだ。

「──…二人ともそろそろ、寮に戻らないと」
「…そうだな。行くぞ、ハリー」
「…さき、帰ってて良いよ。俺は、もう少し此処にいる。流石にこの時代で獅子寮と仲良く歩いてたら、睨まれるし」
「…確かに、そうだな。気を付けろよ?」
「うん。兄さんもね」

 俺は笑いながら手を振って、二人が部屋を出ていくのを見送った。そのあとは、ただボーッと白い携帯を眺めていた。どれぐらいそうしていたかは判らない。でも気が付いたら消灯時間が近付いてて、俺はやっと重い腰を上げて部屋を後にした。





「…今日は、三日月か」

 申し訳ない程度の月明かりが照らす廊下を歩きながら独り言を言う。

「…星を観るのには、丁度良いかな」

 本当は、朔夜の方が良く見えるんだけど夜道を歩くことを考えると三日月夜の方がまだ安全だ。俺はローブから白い携帯を取り出して、それを月明かりに晒して眺めた後、寮へ向かうのは止めにして禁じられた森へ進み直した。
 夜のホグワーツは暗い。でも暗闇を恐れたことはない。光が生命に活力を与える存在なら、闇は生命に安らぎを与える存在だからだ。二つは常に表裏一体背中合わせ。引き離すことなんて出来ない。光があるから闇が生まれ、闇があるから光が生まれるんだ。それを理解していれば、闇を恐れることはない。

「…うわぁあっ?!」

 …恐れることはなくても、足元はちゃんと見ないと流石に転けるよなぁ(汗)
 夜目は利く方だから大丈夫だろうと思っていたら甘かったらしい。盛り上がっていた樹の根に気付かずに派手に転んだ俺はある違和感に気が付いた。

「…あれ…?」

 右手の端をザックリと切っている。血だって出てる。でも、痛みがない。

「…なん、で……?」

 かなり深く切っているのか血は止まらない。なのに痛みが“全くない”んだ。訳が判らない。なんで痛みだけ抜けてるんだ。



 
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