小話部屋


□バレンタイン
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 朝起きるとメールが来ていた。


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2/14 05:45
from ロン・ウィーズリー
to トム・リドル
sub
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Happy バレンタインデー
フクロウに渡した部屋に、アタシからの『“ギリ”チョコ』を置いといたから召し上がれ


追伸
ハーマイオニーが気付く前に食べてね
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「…なにこれ」

 僕は首を傾げながら、朝の恒例のモーニングメールをハリーに送った。直ぐに来る返事は来ないので電話をしても出ない。どうやらかなり熟睡しているらしい。しょうがないから後は同室のウィーズリーに任せて僕は身支度を済ませ大広間に向かった。
 するとさの途中、フクロウが僕の足元に手紙を落とした。それを拾い、差出人を確認すれば、メールの通りウィーズリーからだった。

「…ここは?」

 手紙には地図と小さな鍵。そして見覚えのある丸眼鏡。嫌な予感を覚えた僕はもう一度ハリーに電話をかけながら地図を片手に踵を返した。

「…リドル?どうした、眉間に皺を寄せて」
「──…あ、ハーマイオニー。ハリーが電話に出ないから気になって」

 地図が示す場所に向かっている最中、僕はハーマイオニーと出会した。ハーマイオニーは罰が悪そうに僕に謝罪の言葉を言った。珍しい事があるもんだ。

「いや、実はな…ハリーがお前のチョコを徹夜で作っててさ、この二日間まともに寝てねぇから軽い睡眠薬を飲ませて無理矢理寝かせたんだ。電話に出なかったのはそのせいだろうな」
「チョコレート?僕に?」
「バレンタインデーだからな。日本では、好きな奴にチョコレートを手作りであげる習慣があるんだ。因みにダチ用に『義理チョコ』ってのもある」
「へー。じゃあ…ハリーは僕のためにチョコレートを作ってたんだ」
「ケーキをな。ハリーのケーキは美味いぞ〜、前の世界でホテルのパティシエ長と仲良かったからレシピ貰ったりしてたからな」

 ハーマイオニーは楽しそうに笑う。彼女は僕には素を出すようになってきた。つまりは“ホントの自分”で接してくれる。どうやら彼女の言い回しは、ある程度女性でも違和感がないようにしているらしい。少し見習ったら良いよ、ウィーズリー。

「君はくれないの?」
「あ?」
「義理チョコ」
「野郎に渡す義理はねぇよ。大体チョコは女子から男子にやるんだよ」


 ハーマイオニーは呆れたように顔を歪めると僕の頭をポンポンと撫でた。ハリー以外で僕をこうするのは彼女だけだ。勿論僕もハリー以外で許しているのは彼女だけ。“兄”っていうのがどういうものか判らないけれど…彼女みたいな人を言うんじゃないかなって思う。ハリーとハーマイオニーのお陰か、僕は昔に比べると随分素直になったような気がする。ウィーズリーは…悪友みたいな感じかな。とにかく、二度目の学生生活は存外悪くはない。…彼らが、僕の時代にいれば僕は悪の道に走らなかったかもしれないなと、思うほどだ。在り来たりだけれど、嘗て僕が否定したものが…僕を満たしてくれていた。

「…で?お前は何処に行こうとしてるんだ?」
「んー…」

 此処で悩むのはウィーズリーのあのメールの“追伸”だ。でも此処でウィーズリーを選ぶかハーマイオニーを選ぶかで僕の今後が決まる気がする。主に“寿命”が。

 さて、どうしたものだろう。



‡‡‡‡‡‡‡



「…ん」
 ふと、意識が浮上した。どうやらいつの間にか寝ていたらしい。

「あ!!リドルのケーキ?!」

 俺は思わず声をあげた。中々に苦戦したアールグレイのクリームの配合がやっと上手くいき、それをビターショコラのスポンジでサンドしさらにアールグレイのスポンジを重ねて仕上げた後…どうしたか記憶がない。慌てて周りを見ると眼鏡が無いことに気付き更に慌てるが、ボヤけた視界に箱らしき物が見え手探りでそれに触れてみた。顔を近づけて外見を確認すると俺が用意していたラッピング紙にくるまれた箱だった。微かに薫るアールグレイの香りがそうだと物語る。良かった、ちゃんとラッピングしてたんだ。

「…なんだこれ?」

 俺は自分の服の違和感に気が付いた。まずは袖。蜘蛛の巣と蜘蛛が描かれたレースが幾重にも重なってふんわりと広がっている。まるで某ゲームの骨仮面ストーカーの様なレース量で広がり方も肘から扇状に広がっている。その境目からは黒の薔薇の刺繍が大柄で描かれているレースがドレスローブの様に繊細な作りになっていた。背中に手をやればコルセットの様に革紐を縛る仕様になり体のラインに合わせられるようになっていた。因みにこの仕様は胸脇にもある。昔の俺の体型なら胸を強調するラインになっただろう。マジありえねぇ。


「…なんだこりゃあ?!」

 そして、部屋着だった筈なのにレースローブの下は『股下丈の真紅のドレス』だった。アンダーバストラインに繊細なレースが入りアクセントになっているし、胸の中央からクロスして脇下を通るようにレースがゆらゆらと遊ぶようになっている。しかも俺の視界に入る足はガーターベルトをつけていて、絶対領域を残しつつ網柄オーバーニーがこんにちわをしていた。足元は俺の好きな黒革のショートブーツからワインレッドのブーツへ変わっている。しかも明らかにこのブーツはレディースだ。だって踵が十センチはある。

「…何がどうなって…しかも変なリボンまでついて──…なんかチョコレート臭くねぇ?」

 自分の体からするチョコ臭に眉をしかめると“ガチャ”と扉が開く音がした。気配で俺は開けた主がリドルだと気が付いた。

「あ!なぁリドル、俺の眼鏡知らねぇか?」
「………君は、ハリーかい?」
「は?何寝惚けたこと言ってんだよ…俺はハリー・ポッターだ」

 一瞬の間の後、リドルが間抜けた事を言うのでリボンを握ったまま眉をしかめればリドルは思い切りドアを開き一瞬で駆け寄ってきた。しかもかなりテンション高く。マジ恐ぇ…!!

「どうしたのその恰好?!可愛い似合ってるよ!!あーでもハリーには真紅より瞳に合わせて翠が似合うかなでもそのドレス最っ高だよ!!髪の毛もアップにするなんて君のその白くて細い首筋を見せ付けられたら僕の理性なんて吹っ飛んじゃうよ?!香水もなんだかチョコレートの香りみたいだ!!」
「ぉおおおおぉ落ち着け?!鼻息荒くするな?!怖いわぁー?!」

 両手をガシッと握られて、まるで犬のようにクンクンと臭いを嗅がれるが俺は俺で自らの意思でこんな格好になっているので余計に恐怖が勝る。ていうか誰かリドルを止めてー?!

「落ち着け愚弟」

 俺の心の叫びが通じたのか、ハーマイオニーはリドルの後ろからジャンピングダンクハリセンをした。スパーン!!と粋の良い音が部屋に響くとリドルはその場で頭の天辺を抑えて踞った。どうやら相当痛かったらしい。

「ハーマイオニー…」
「なんつー格好してるんだ…そんなんじゃリドルに食われても文句言えねぇぞ」
「俺の意思じゃないよ?!」

 ハーマイオニーが溜め息を吐くと俺はこの経緯を説明した。だって俺悪くないもん!!こんなリドルを挑発するような格好しないもん!!

「つまりお前の意思じゃねぇんだな?」


「ぁ、良い。ハリー、今のもっかい言っ「黙れ変態!!」

 ジリジリと近寄って来たリドルの脳天に次は峰打ち一発を入れて黙らせた。意識ごと。ハーマイオニー半端ねぇ。

「──こんなことをヤるのは彼奴しかいねぇな…ロンの野郎…?!」
「え?!ちょっと、ハーマイオニー?!………行っちゃったよ」

 しかも気絶したリドルは放置ですか…って、あ。ちゃんとロープで縛ってる。いつの間に。ていうか、ここの扉はオートロックか。今自然に閉まった後にカチッて鍵まで閉まったぞ。しかも内側も鍵穴だから鍵がなきゃ開かないじゃないか。

「…俺の着替えは…ないか」

 静かになった部屋で思わず吐いた溜め息が響いた。取り敢えず袖が邪魔なので俺はレースローブを脱ぎ捨てた。するとレースローブは俺の制服のローブに姿を変えた。

「…え?何これ?」
「君の制服の魔法がかかってるんじゃない?脱いだら解ける仕様なんだよ」
「成る程、ロンなら考えそうなことだな………って、リドル?!お前意識飛ばしてたんじゃ…?!」

 後ろから俺を抱き締めるようにして捉えたリドルがニヤリと意味深に笑った。

 後ろから俺を抱き締めるようにして捉えたリドルがニヤリと意味深に笑った。
「振りに決まってるじゃないか。あーでもしなきゃ邪魔者は消えないだろ?」
「お、お前…じゃあわざと気絶した…ひゃあ////ι」

 既にバレている左うなじをペロリと舐められた俺は膝からカクンと力が抜け落ちてしまいしゃがみこむ手前でリドルにサッと抱き抱えられた。そのまま都合よく部屋の奥にあったベッドに降ろされて、馬乗りにされて見下ろされる。

「うん、どうやらハリーにチョコの魔法がかかってるみたいだね。舐めたらチョコの味がしたよ」
「…は?」
「これは舐めとるか溶かすかしか方法が無いなぁ」
「…え?」
「しかも今着てる服を脱がなきゃ、制服は元に戻らないみたいだね♪」
「はい?!」

 確かにレースローブが制服のローブになったけどって、今目の前で脱がされたブーツも黒革ブーツに戻ったけどマジで?!

「ちょっ…まっ?!////」

 俺は明らかにソッチ方面で火がついているリドルから逃げようともがくせれど如何せん、奴はしっかりと俺の腰に乗っている。足がバタバタするだけで無意味に終わった。


 
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