小話部屋


□時の螺旋
〜成り代わりシリーズif 学生時代トリップ編〜
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 ホグワーツに来て三日。
 気が付くと、ボクはいつも此処に来る。禁じられた森の開けた場所。ぽっかりとリング状に開けた空を見上げれば、満天の星がくり貫かれたように瞬いている。今夜は新月だから、月明かりはなくて頼りなくも柔らかい星明かりが一層綺麗に見える夜。此処に来ると切ないくらい胸が痛くなるのに、ボクはどうして来るんだろう。

「…思い出せたら、判るのかな」

 ボクは首から下げている二つの指輪を見つめた。表には小さなエメラルドが輝いているけど、内側には同じ大きさのルビーとイニシャルが掘られているそれは僕の指よりも大きい。そういえば、同室の“彼”も同じイニシャルだったっけ。偶然って凄いなぁ…
 もう一つはボクの左の薬指だけにピッタリで、表には小さなルビーが輝いている。内側には同じ大きさのエメラルドとイニシャルが輝いてる。イニシャルは“H・P”…ボクも“ハリー・ポッター”だから、多分これはボクの指輪。




 記憶を、喪う前の。






‡‡‡‡‡‡


 彼が編入してきたのは三日前だ。けれど今では恐らく僕と獅子寮の才女の次に話題と人気を持っていると思う。何故なら彼は僕のように人の目を惹き付けるからだ。
 彼の肌は透き通るように白い。例えるならまるで雪のようだ。髪は艶やかな波打ち黒いが故に更に彼の肌を引き立てる。それに女の様に華奢で、後ろから見ると女子に見える。制服でなければジーパンでも怪しいぐらいだ。

「…此処って、なんでこんなに広いんですか」
「多分、歴代の先人達が改装や改築を繰り返したんじゃないかな?」
「なんて…迷惑な…」

 声も、中性的な高さで透き通る様に美しく判断に悩む。

「次は、闇の魔術の防衛術、ですよね?」
「そう。この授業はグリフィンドールと合同だよ」
「さっきは、えっと…ハッフルパフ…でしたよね?」

 なら顔は、と言えば一番あてにならない。彼のルックスはハッキリ言って女にしか見えない。小さな顔は黄金比の位置にパーツが全てある。猫のようにクリッとしたアーモンド型のエメラルドの瞳や高すぎない鼻筋。グロスやリップをしたような薔薇色の唇。整った眉も嫌な印象は受けない。唯一彼に不釣り合いなのはダサい丸い眼鏡だ。

「とにかく、今は授業よりも道と教室の位置を覚えることを優先した方が良いね。授業は昨日一昨日見たいに後で僕が教えるから。ね?ハリー」
「…はい、有り難う御座います、トムさん」


 編入生の名前はハリー・ポッター。不思議な雰囲気のする物静な美男子だ。飲み込みも早く、この三日で復習も兼ねて彼に教えたりしたが学年上位も簡単に狙えそうだった。

(今の内から仲間に引き入れるか…)

 僕はこのホグワーツで学年一位で、今年から監督生をしている。自分で言うのもなんだが容姿端麗で、お陰で僕の思い通りにならない奴はいない。きっとポッターも簡単に手に入れられる。それとももう少し様子を見た方が良いだろうか。

「──…トムさん」
「なんだい?ハリー」
「…あの二人は、誰か知ってる?」

 クイクイと袖を引かれて振り返り視線を落とすとポッターが指を指して中庭の噴水に座る男子とその男子の膝を枕にして寝ている女子を見ていた。

「──知ってるよ。彼らは有名だからね」
「有名?」

 深紅のマントをつけている二人は、正直な話…苦手だ。何かが、頭に引っ掛かるんだ。でもそれがなんなのか判らないから気に食わない。

「去年編入してきた二人で、男子は『ロン・ウィーズリー』。今年のチェスの世界チャンピオン。少し個性的な生徒だ」
「……」

 ポッターは頷きながら彼を見た後、僕は寝たままの女子を指差した。
「彼女は『ハーマイオニー・グレンジャー』、もう一人の首席」
「え?!…見えない」
「因みに彼らはグリフィンドールの監督生」
「ますます見えな…?!」

 ポッターは急に右手で頭を支えると三日で生徒達を魅了した顔を盛大に歪める。どうかしたのかと思った瞬間視線を感じて振り返れば、グレンジャーが体を両肘で支えながら肩越しに僕らを見据えている。彼女達からは距離があるのに、ずれることなく見据えている。まるで僕らが見ていたことに気付いたかのように。

「───ッ!!」

 それだけじゃなかった。グレンジャーは左手をダルそうにあげたかと思うと、ジェスチャーで僕に告げた。人差し指と中指で自分の目を指し示すと其れを僕に向け二回指した。

『見てるからな』

 僕がジェスチャーの意味に気付いたことを確認した彼女は勝ち誇った顔で立ち上がると、まるで中世の騎士の様にウィーズリーに手を差し出し彼を女性の様に扱い(もちろん彼の荷物を持って)リードすると城内へと消えていった。



‡‡‡‡‡‡


「ねぇ、ハーマイオニー」

 俺は後ろから声をかけてきた恋人を肩越しに見上げる。ご存知、その魂は現代日本からやって来た腐女であるロンだ。


 
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