小話部屋


□覚悟と決意
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覚悟と決意




いいよ。
君の願いを叶えてあげる。
でも勘違いしないで
ボクは君の魂を元の世界に戻すだけだし、
君だけを戻す事はできない
君と同じ魂も巻き込むことになる
それに戻った先で
本来生きる筈だった魂を消すことになる
それは一人かもしれないし
大勢かも…それは大罪だよ。
他人を巻き込んででも戻りたい?
かつて喪った友情の為に?

……へぇ、気に入ったよ。その決意。






 世界は、万有の理──真理の前では、一冊の短い物語の様なものだ。現に魂の境界にある万有の書庫には、世界の歴史や個人の人生が“本”として納められている。その書庫へ行くには幾つかの条件を満たし、対価を払わなければならない。そしてその“対価”を使えば、管理者と交渉することも可能だ。







「…母さん?」
「良かったわ、目が覚めたのね?!ハーマイオニー!!」
「ハーマイオニー?!大丈夫か?お腹は空いてないか?」
「…別に、問題はないけれど」

 パキパキとなる間接にしかめながらハーマイオニーは上体を起こす。この気だるい感覚、どうやら相当寝ていたようだ。


 許される罪ではない。


ハーマイオニーはただ黙って、彼らを強く抱き締め返すのだった。




「───グレンジャー・ハーマイオニー」

 懐かしい湖を渡り、懐かしいエントランスを抜け、懐かしい大広間についた俺の名を呼ぶのはマクゴナガル。俺にホグワーツ入学を言いに来た教員だ。俺は特に緊張する訳でもなく組分けの椅子に座り帽子を被った。

「…おや?」
「…どうした?」
「いや、君から何だが懐かしい力を感じてね。さて、何処に入れよう」
「決まってんだろ、グリフィンドールだ。判ったらとっとと言えボロ雑巾」
「…え?」
「千年ぶりだな、帽子。まさか俺が判らないのか?」

 未だ現役の帽子に俺の胸には嬉しさが込み上げた。やっと、追憶を分かち合える友と再会できた。それは俺に安堵と喜びを与えたんだ。

「…まさか、旦那様?いやでもこれは旦那様の力の波長で…でも旦那様はずっと昔にお亡くなりに…」
「おい、混乱するなよ…ただの生まれ変わりだ」
「…お懐かしゅう御座います」
「あぁ。実はマスターも彼奴も生まれ変わって、今此処にいるんだ」
「なんと?!…あなた様のように記憶は…?」

 俺は帽子に向かって首を横に振る。


「…左様でございますか…お寂しいですな」
「まぁ、な。だが、新たな人生の友として今は共にいる。彼奴も恋人だ。昔と変わったのは性別ぐらいだな」
「左様ですか…しかし、旦那様。性格変わりましたね」
「は?」
「どちらかと言うと、サラザール様に似ているような」

 …なんだって?俺が、サラザールに似てる?つまり今の俺は蛇寮向きだって言いたいのか?卑屈になったとでも?

「…ほぅ?かつての主人の事はもう忘れたのか、薄弱だな帽子。引き裂かれたいか」
「ッ…?!」
「教えてくれ、帽子。俺の何処が蛇の様なんだ?卑怯で根倉で卑屈な彼奴に似てるのか?」
「うっぅえ…っ?!(-.-;)」
「俺が目的のためならどんな手段を選ばない様な────…」

 確かに彼奴は親友だったが似ていると言われるのは心外だ。そう思った。けれど、あっていると思ってしまった。彼奴らを巻き込んで、この世界に戻ってきている時点で。
 俺が口を紡ぐほどキレていると思ったのか帽子は混乱した頭のまま(頭があるのかは知らんが)「スリフィンドール」と叫んだのでグリフィンドールと言い直させたあと、俺は馴染みの席へと移動した。

「「やぁ!!グリフィンドールへようこそ!!」」


「グリフィンドール!!」


 ハリーがグリフィンドールに組分けられた。彼女は原作の『ハリー』の様に四つの寮の特性を持っている子だ。なので時間が掛かった。組分けを終えたハリーは嬉しそうに微笑みながら俺の向かいに座る。そして上級生に一頻り弄られた後、携帯を取り出しメールをし出した。

(…“友達になりたい”ね。そんな顔してよく言うわな)

 ハリーを尻目にしながら、他の生徒が組分けられていくのを見ていた俺は軽く溜め息を吐いた。ハリーの表情は、柔らかくて可憐だった。それこそ“恋をしている”という表情だった。

 別に、ハリーの人生だからこいつが誰を好きになろうと俺が干渉して良いことではない。けれどハリー、何故『トム・リドル』なんだ。相手は闇の帝王の若かりし頃だぞ。言うなれば『闇の若様』じゃねぇか。しかも同性だろ。やはり中身が女だから、男が恋愛対象になるんだろうか。俺がそうだからな。それを考えると、同性愛には目を瞑れるが…何故にトム・リドル。

「…やっぱりサラの末裔だからか?」

 マスターはとにかくサラザールを愛してた。そしてそれ以上にサラザールはマスターを愛していた。 もしトム・リドルがサラザールの性格や好みまで遺伝していたら、恐らく秒殺でハリーに惚れるだろうな。相思相愛になるのにも時間は掛からないんじゃないだろうか。それぐらい、今のハリーはマスターに似ているのだから。髪をストレートにすればマスターの完成だ。再会したときはあまりの似具合に思わず言葉を無くしたほどだったんだから。

「…ハーマイオニー♪」
「…ロン」

 やっとロンまで組分けが終わり晩餐が始まった。


 いつか俺は、彼女達に真実を言わなければならないだろう。きっと二人は許してはくれない筈だ。ハリーが絶交をいうとは思えないが、ロンなら…有り得る。



「…それでも、俺は──…」




 主の最後の子孫を、護りたいんだ。主の魂と共に。だから、だから俺は──…














君はタブーを侵すことになる
他の二人が帰れても、

君だけは、この世界からは出られない。
罪深き魂は永遠にこの世界に留まるんだ。

それでも、いいんだね?






 もう、後には退けない。









   終

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