小話部屋


□時の螺旋 代償
〜成り代わりシリーズif 学生時代トリップ編〜
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「ロン、ハリーは任せたぞ」
「もちバチ。貴方も…程々にしてよ?」
「ちゃんと手加減はするぞ」
「そうじゃなくて…まぁいいわ。がんばってね」

 ロンが呆れたように溜め息をして、ハリーを抱えて教室脇へと移動した。俺は肩を竦めながらトム・リドルに向き直る。

「模擬決闘だろ?俺が相手をしてやるよ」
「…君が?」
「あぁ。手加減に、呪文を唱えるは一回だけにしてやる」

 首をコキッコキッと鳴らし、肩をグルグルと回しながらトム・リドルを見る。笑顔の中に見える怒りに思わず俺は口角を上げた。さぁ、トム・リドル?上には上がいることを教えてやるよ。

「お前の不敗神話はここで終わる。そしてここから、俺の不敗神話が始まるのさ」
「…凄い自信だね。流石は、獅子寮の才女だ」
「それだけじゃあねぇぞ?お前が俺に絶対勝てない理由が二つある」
「…二つもかい?」
「あぁ。一つは、経験の差だ」

 屈伸や上半身捻りを繰り返しながら俺はニヤリと笑う。もうトム・リドルは顔を引きつらせている。俺は杖を持ちながら奴に向けてVサインをする。さぁ、引っ掛かれ。

「二つ目は、相手が俺だから」
「…どういう、意味だい?」
「言葉通りの意味だ。今のお前じゃ、一生俺には勝てない」

 俺が笑いながら言えば、トム・リドルの片眉がピクリと動いた。そうでなくちゃ、面白くない。大勢の前で態とお前を挑発してるんだ。乗ってくれなきゃ困る。

「あぁ、“女子相手に本気になるわけないだろ”なんて…そんなつまらねぇ言い訳を負けた理由にすんなよ?不様だからな」
「しないよ。生憎と…僕は相手が誰であっても、手は抜かない」
「いいな、俺もそうだ。[気に入らねぇ相手なら尚更だろ?]」

 杖を構えるトム・リドルに、日本語で言ってみた。もしこれを聞き取れていたり、日本語で返してきたら…計画を変更しようと考えているからだ。だから態と頭に来るような言い回しを繰り返しているわけだが…リドルが案外単純だったからトム・リドルも単純だと踏んでこの方法を取ったんだが──…どう出るかな。


[気に食わないなんて、僕は君の事を僕なりにリスペクトしているよ?]


 トム・リドルの返事に俺は思わず喉で笑った。そして胸に安堵の思いが込み上げる。良かった、アイツは…リドルはいる。トム・リドルの中に。


「──こりゃあ驚いた」
「…え?」
「ホグワーツの神童様は、日本語も堪能でいらっしゃる」
「…日…本語?」
「周りの反応を見てみろよ。お前が異国語を話したもんだから豆鉄砲を食らった顔してるぜ?」

 俺の読みは当たっていたようで、トム・リドルは無意識に日本語を話したらしい。きっと初めて蛇語を話したときのように、自分が別の言葉を話していると自覚が無いんだろう。
 トム・リドルはチラリと周りを確認して、俺が言っている事が嘘かどうかを確かめて愕然としている。正確には、表情には出ていない。でも伊達に俺はリドルの師をしてはいない。彼奴の微妙な感情の変化の見分けはつく。
 そしてトム・リドルが状況を把握できないまま、教師は決闘の合図をした。俺はそれと同時に間合いを詰めてトム・リドルに向けて高く蹴り上げる。トム・リドルは寸での所で其れを避けた。そして唖然と俺を見つめている。

「負けたくなかったら殺す気で来い、トム・リドル。お前が相手をするのは、俺なんだからな」


 こうして俺とトム・リドルの模擬決闘が始まった。




‡‡‡‡‡



「…あーあ、だから程々にしなさいって言ったのに。トムくん、かわいそー」

 パタパタと、持っていた扇子でハリーを扇ぎながらアタシは台の上で生き生きと楽しんでいる愛しい愛しい恋人を見つめていた。あんなに楽しそうな彼女は、いつぶりかしら…

(…否定しても、やっぱり仲良くなりたいんじゃない。素直じゃないんだから)

 小さい頃から、そう。貴方は辛い気持ちや悲しみを吐露することが苦手で…それを溜め込んでいることすら気付かない。どうして、頼ってくれないのかしら。アタシはまだ…対等に並ぶことは、出来ないのかしら…

「──おい」
「…あら?オリオン君とアルじゃない。どうしたの?」
「ポッターの事が気になったんだ。彼は大丈夫?」

 ハリーは何故かスリザリンに編入してしまった。多分、リドルを求める想いを帽子が感じたのね。

「大丈夫よ、脈は正常だし気を失ってるだけで…時期に起きるわ」

 去年から、アタシ達はアルフォード君と交流があった。彼は純血主義のブラック家とは思えないほどフレンドリーにグリフィンドールに接する。一方のオリオンは違う。明らかにトム・リドルの命令でアタシ達に接触してきている。

「凄い悲鳴だったな…大丈夫か?」
「本来なら、僕らが引き取るべき…なんだろうけど……」


 語尾を濁わせたアルにアタシも思わず肩を竦めた。ハリーは気を失っているにも関わらず、アタシのローブをガッシリと掴んでいて離さない。ほどこうとしても無理だったの。

「なれてるから、大丈夫よ」
「なれてるって…君達知り合い?」

 アルはアタシの隣に座るとマジマジとハリーを見つめる。ハリーの寝顔はまるで少女の様にあどけなく、睫毛に残る涙が扇情的に男を誘う。リドルだったら悶絶もののそれをオリオンも見つめていた。

「そうよ。幼馴染みなの」
「…どうでも良いけど、お前、何で女みたいな話し方なんだ?」

 どうやらオリオンはずっと其処が気になっていたみたい。アタシはニコリと笑うと平然に告げた。

「だって、女の子だもん(≧▽≦)/♪」
「………そうか」

 此処にハーマイオニーがいたら即座にくるツッコミもなく、オリオンは顔を引きつらせながらハーマイオニー達に目を向けた。

「…凄いね。模擬の域を越えてるよ」
「…彼奴が、おされてる…?」
「あら、意外。ちゃんと見てるのね」

 アタシも二人に合わせてハーマイオニー達へと目を向けた。トム・リドルとハーマイオニーは互角に見える。でも実力者や見る目がある者には判る。

「今のトムくんは、勝てないわよ」
「…悔しいけど、そうだろうね」
「…………」

 アタシはチラリとオリオンを見る。悔しそうに両手を握り締めている。自分が忠誠を誓っているゴシュジン様の負ける姿は見たくないみたいね。

「相手がアタシのダーリンじゃあ誰も勝てないわよ♪」

 その魂は、かの有名なゴドリック・グリフィンドール。その記憶があるということは、その知識もあるということ。つまり彼女と決闘するということは、千年前の偉人と決闘しているも同意語。齢16の少年には、過ぎる相手。

 アタシはもう一度ハーマイオニーを見た。すると彼女と目が合った。そして彼女は不敵に笑う。

「決まったわね」
「え?」

 アタシが呟くのと、トム・リドルの杖がハーマイオニーの足元に転がるのは同時だった。彼女は無言呪文で武装解除をした。まぁ、それまでの間に机やら椅子やらが犠牲になってるけど…それは彼に悟られないためのフェイク。ただそれを素手でやるのは…普通は出来ないわよ、ハーマイオニー?


「───…ロ…ン…?」

 この場にいる生徒全員がトム・リドルとハーマイオニーに気がいっている中で、やっと目を覚ました私達のお嬢様。


「大丈夫?貴方、気を失ったのよ…?」
「───…あぁ…多分」

 …あら?気のせいかしら、雰囲気が変わった気がする。三日前に見た時は、迷子の仔猫みたいな表情だったのに今は違う。アタシの知るハリーの雰囲気だった。

「…あー…すっげぇ頭いてぇ…つか、何処だよ、ここ」
「何処って…ホグワーツよ?」
「…はぁ?」
「だから、ホグワーツ」
「…なんで俺、ホグワーツにいんの」
「編入したから?」
「編入?!」

 ガバッと勢い良く飛び起きたハリーは周りを見渡して、そしてアタシに向き直ったと思ったら肩を思い切り掴まれた。しかも前後に振られる。え、何これ何展開?

「何がどーなってんだよー?!俺、森の中でポッター一家を襲ってた人狼と吸魂鬼を追っ払ってた筈なんだけど?!」
「ディ…ディメンター?!貴方、なんて運の持ち主なのよー?!」



 その後どうにかハリーを落ち着かせたアタシはハリーから詳しく聞いた。
 ハリーは記憶喪失だったみたい。しかも人狼と吸魂鬼に襲われていたポッター一家を助けたけど、足場が崩れて崖から落ちたそうよ。で、それ以降の記憶がなくて目が覚めたら此処にいる状況にまだ頭がついてきてないみたい。

「…お前、記憶喪失だったのか」
「みてぇだな」
「…なんか、キャラ違うね?」
「え?俺今までどうだったんだ?!」
「迷子の仔猫みたいで可愛かったわよ♪」
「げぇえ?!気持ち悪ぃー?!」

 盛大に顔をしかめたハリーに、オリオンは吹き出すとゲラゲラと笑い始めた。

「な…なんだよ」
「いい!!俺、今のお前の方が良い!!」
「????」
「気に入られたみたいだね」
「お…おぅ?つか、おまえら誰だ?」

 アタシとしては、迷子の仔猫ハリーも捨てがたかったなぁ。



「…おい、なんの騒ぎだ?」
「あら、お帰りなさい♪」
「──あ、兄さん!!」

「「「…“兄さん”?」」」


 よく『記憶喪失の人が記憶を取り戻したとき、喪失中の間の記憶が抜ける』って聞くけどハリーはどうやらそれみたいで二人の事が判らないみたいだったから軽く「貴方の同寮のスリザリンよ〜」って話して上げるとハーマイオニーが帰ってきた。

「ハリー、お前記憶が戻ったのか」
「みたい」
「そりゃ良かった。たく…ヒヤヒヤしただろ。で?喪失中の記憶は?」
「んー…」
「ないみたいね〜。今二人を説明し終えたとこよ。あとは…彼ね」
「…あぁ…トム・リドルか」




 
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