小話部屋


□時の螺旋 其々の…
〜成り代わりシリーズif 学生時代トリップ編〜
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 夢を、見る。彼が来てから。

 トムは真っ白な空間にいた。目の前にはいくつもの扉があり、掌にはエメラルドの宝石が付いた華奢な鍵。この空間から出るための鍵なのか、奧に行くための鍵なのかトムには判らなかった。だから彼は動かずにただ鍵を見つめ立ち尽くすしかなかった。そしていつの間にか、目が覚めるのだ。



‡‡‡‡‡



「トム〜?ほら、起きろってば」
「……ぅ……ん…?」

 床に膝をつきベッドで頬杖をついているルームメイトのポッターが微笑みながら小さく笑いながら僕の頭を撫でた。細い指が僕の髪をサラリと何度も何度も撫でていく。

(…え?頭を、撫でた?!)

 僕は何をされたのか判らないまま、既に役目を終えたとばかりに背中を向ける彼を凝視する。彼は既に制服に着替えていて、授業の準備をしていた。

「…ポッター」
「んー?」
「…僕は寝過ごしてしまったのかな?」
「少しな。でもまだ時間に余裕はあるから大丈夫だぜ?つか、疲れてるんじゃないか?いくら朝が苦手でもお前が起きれないって、よっぽどだろ」


 僕は元々朝が苦手だがそれをホグワーツで出したことはないし、誰にも言っていない。なのにポッターはその事に気付いたらしい。彼の言葉に時計を見れば僕がいつも起床する時間より15分も進んでいた。僕がベッドから出ると彼は僕の着替え一式を持って近付き、それをベッドに置いた。彼はこの一週間の間、一連の流れをまるで当たり前の様に行う。別に頼んでもないし強制もしてはいない。だが彼は、この制服の様に僕の必要な物を然り気なく持ってくる。取り巻きより早く気が利くし気付くんだ。まだ会って間もないというのに、だ。
 僕はそんなポッターを見ながら、やんわりと首を横に振った。

「疲れてないよ。僕はやるべき事をしてるだけだからね」
「やるべき事、ねぇ…?」

 ポッターは、他の奴とは違う。僕に媚びたり気に入られようとは、しない。敵意もない。今までにこんな奴は…いなかった。自分を隠したり偽ったりもしない。ありのまま、真っ直ぐな瞳で僕を見つめる。
 小鳥の囀ずりの様な声は耳に心地良いし何故か懐かしさも感じる。不思議だ。何もかもが。

「じゃあ、肩、ちょっと貸してみ?」
「え?」
「ほら、良いから良いから」


 
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