小話部屋


□時の螺旋 夢の浮き橋
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 ハリーは人気者になっていた。人懐っこい性格と少女の様なルックスと体躯。学年首席二人に並ぶ成績を叩き出したのだから当たり前だろう。彼は寮に関係無くフレンドリーに接する。無邪気な屈託の無い笑顔で話すのだ。

「…今、なんて言ったのかもう一度聞いても良いかい?」
「ん?だから、明日からブラックと同室になるから」

 トムは一瞬、話についていけなかった。彼が来てからか数ヶ月。冬になりクリスマスも近い。確かに未だに同室だ。監督生の特権の個人部屋は、彼が来てから無意味なものになってはいた。だがトムはあまり気にしなくなっていたのだ。寧ろ部屋に帰ったときに彼が出迎えてくれなかった時は、訳の判らない感情を覚えて苛々した程だ。
 そもそも彼が来てから…いや、記憶を取り戻してから理解できない感情が自分を支配し始めている。

 朝、一番に見るのは彼の笑顔がいい。挨拶も、一番に彼に言われたい。隣にいないと落ち着かない。
 昼、いつも獅子寮のカップルの元へ行く彼を目で追う。自分には見せない表情に、怒りを覚えた。
 夜、見回りが終わるまで起きて待ってくれている彼に安堵する。昼間の怒りも溶けて無くなってしまう。そして…


「───トム?」
「ぁ…いや、なんでもない。でも、えらく急だね…?」
「いや、実は結構前からスラグ先生には話してたんだよ。特権が無くなってトムに申し訳ないから、部屋を移動したいってさ」

(…確かに、そうだ。これで『部屋』に集中できる。なのに──…)

 この、胸のざわめきと焦りは何だ。

「てな訳で、俺はちょっと荷造りするけど──…トムは風呂に行ってこいよ」
「…あぁ…そう、するよ」

 無邪気な笑顔で送り出されたら、頷くしか出来ない。トムは訳の判らない苛立ちを覚えながら、監督生専用の個人風呂へと向かっていった。

 トムは一人歩きながら考える。何故、今、頭の中は彼しかないのか。ポッターの台詞が頭から離れない。

「──…苛々する」

 彼は、オリオンにも…するのだろうか。目が合ったときにする、あの柔らかな微笑みを。

「───…」

 トムは足早に風呂場へ向かい、もう何も考えない事にした。兎に角、これで明日から今までと同じ様に『部屋』に集中できる。出来るんだ。


 なのに、どうしてこんなに…ショックなんだ?



‡‡‡‡‡


「っああー!!緊張したぁ…」

 ハリーはベッドにダイブしていた。


 
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