お題連載

□03
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「ちょっと倉持!痛い!」

「え?…わ、悪ぃ!!」


私の腕を掴む手がとても熱くて、硬くてちょっと痛かった。少し大袈裟に言うと倉持はすごく焦ったように謝りながら手を放す。


「あの、よ…」


またキレの無い話し方。昨日のことを嫌でも思い出された。
でも冷静になった時、一つ気になったことがある。
『大嫌いだ!』そう言った直後の倉持は傷付いたような表情をしていたのだ。

ったく、傷付いたのはこっちだっつの!


「昨日は、本当に悪かった…」

「よく喧嘩する相手とはいえ、めちゃくちゃ傷付きました。」

「ゔ…っ」


半分冗談の混じった言葉を放てば、倉持は口をへの字に曲げる。


「だから悪かったって」

「本当に思ってますかー?」


「思ってる。」


意外にも真剣な眼差しで返された。不覚にも、ドキリて胸が跳ねた。
まあ、不意打ちというやつには誰しも弱いわけで、これは別に倉持が格好良いとかそういう意味ではない。断じて違う……うん、違う。


「な、なら許してあげるよ」

「本当か?!」


若干上擦った声でそう言えば、倉持の顔がパアッと明るくなって嬉しそう。何だろう。すごく、謎だ。
こんな事で喜ぶなら最初から「大嫌いだ」とか言うなよと殴ってやりたいが、奴の顔を見たらそんな事は出来ない。


「あ。」

「あ?」


ふと、あることを思い出す。あまり中身が入っていない鞄の中を漁って袋を取り出した。さっきのとはまた少し違うラッピングをされた袋。


「はい」

「え?」

「クッキー。あ、要らない?」


わざとらしく鞄の中に入れようとしたら慌てて手を伸ばしてきた倉持。
何か、小さい子を相手にしてる気分だ。


「欲しい?」

「要る!食べたい!」


ちょっと待て。何か倉持が可愛いぞ。本気で言動が幼稚園児みたい。


「し、仕方ないなぁ…ふっ、あ、あげるよ……」

「何一人で笑ってんだよ」


なんだかおかしくて笑いながらクッキーをあげれば、首を傾げられた。


「べ、別に…な、っは、ないよ…!」


ヤバい。ツボに入った。抜け出せる気がしない。


「まずい」


突如耳に入ってきたパキッという音と単語にピタリと笑いが止んだ。
“まずい”…?


「ヒャハ!嘘だよ、うーそ。すっげー、美味い」

「本当に?」

「本当、本当!笑い、止まっただろ?」


ニシッと笑った倉持に若干の苛立ちを覚えたが、確かに笑いは止まったから大目に見てやるとしよう。


「また何か作ってくれよ」


「え、欲しい?」

「欲しい。」

「仕方ない。今度ね」

「よっしゃ」


減らず口の倉持が素直でビックリした。
こうして見ると、笑顔とか可愛いなぁ…


「ん?」

「あ?」


何考えてるの私!!倉持なんか可愛くない可愛くない!!
急に顔が熱くなった。ヤバいヤバい。


「何だよ」

「何でもない!!」

「変なヤツ」

「変で結構です!」

「まあ、そんなお前もす……っ」


お前もす?
何でそんな中途半端な部分で切ったんだ。


「何?」

「え、あ…いや……」


いきなり目が泳ぎだす倉持。怪しいことこの上ない。


「あああああ!」

「な、何?!」


私の頭上に三つ目の疑問符が浮かび上がった時、倉持は叫びやがった。


「好きだ!」

「は?」


瞬間、思考が停止した。
今何て言った?


「倉持が……え、誰を?」

「言っておくけどな、お前に告白してんだからな!」

「え、え…ごめん。頭がついていかない」


意味が分からない。
倉持が誰を?私を?好き…?
じゃあ、昨日の『大嫌い!』は何だったんだ。


「俺は本気だ。」

「だって……え?」


意外にも倉持の目が本気で、思わず視線を逸らしてしまった。


「い、いつから…?」

「それは、言わなきゃダメか?」


慌てながら視線を泳がせる倉持。


「できれば」

「…ほら、俺らって同じクラスだけど御幸を通して話すようになったじゃん?」

「うん。」


心なしか、奴の顔が赤い気がする。そんなに恥ずかしい事なのか。
告白する方が恥ずかしいと思うんだけど。


「そ、それで…」


少しの間が出来る。
どうやら倉持は肝心な所で一時停止するらしい。


「それで?」

「ひ、一目惚れ」


…………。
今何て言った?すごく素敵な言葉が聞こえた気がしたんだけど。
私なんかに一目惚れ?ありえない。何かの間違いではないだろうか。


「…本当に?」

「嘘ついてどうするんだよ」


ドクンドクンと脈が早い。
熱が顔に集まってきて、とてもじゃないが見せられる顔じゃない。


「お前は?」

「え?」

「返事!」

「か、考えさせて」


私がそう言うと、倉持はそっと微笑んで「分かった」と一言。
そして彼は先輩に呼ばれて行ってしまった。


すぐに答えを出さなかったのはきっと、また「嫌い」とか言われるんじゃないかって怖かったからかもしれない。


とにかく、胸の中の駆け回る不安を消したかったから…





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