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□水族館
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「綺麗だなー」


コポコポと気泡が地上に向かって昇っていく様を見つめ、水槽の一番上ってどうなってるのかな
なんて私はぼんやり考える

『澪の方が綺麗だよ』
などとありがちな台詞を吐こうとした自分を押さえ込んだ

恋人同士ならよく使う台詞だろうけど、友達の…女の子同士の私達はあまり使わないだろう

「澪ちゃんの方が綺麗だよっ」

「へっ!!」
「えへへー恋人ごっこ―…こんなこと言ってるよね恋人同士って」
「ばっ馬鹿…唯!」

にぱっと笑った屈託のない天然少女に度肝を抜かれた
さらりと唯にその台詞を持っていかれてしまった
勿論彼女は深い意味を持って言った訳でもない
単なる「友達同士」のおふざけ、遊びに過ぎない

それなのに

(あーあ…あんなに顔真っ赤にしちゃって…)

こんな表情を作り出してくれた唯に感謝しないと
澪は昔から直ぐに顔にでる
ポーカーフェースとかが凄く苦手、嘘とかつけないタイプだよな

(かわいい奴)

このまま唯に悪ノリして手の一つでも繋いでからかってやろうか

それにしてもこの水槽は本当に天井が高い
でも大海原を泳いでいた魚達にしてみたらこんな限界のある仕切られた空間なんてちっぽけで大層つまらなく感じるだろう

「…!…つ…おい律!!」

はっとする
澪が私を呼ぶ声だ

「なっ…何?ごめーん、ぼーっとしちゃってさ」

「次はクラゲ見に行こうって…ほら唯とムギ行っちゃったぞ」

「え、あー…ったく!軽音部部長であるこの律様をおいてなんたるこ…あ」
「いーからさっさといーくーんーだ」


すっと澪に手を引かれた

(え…ラッキー…手繋いじゃった)

でも何だか複雑な気分だ
さっき唯がからかった時はあんなに焦っていた癖に私にはなんの恥じらいもなくこんなことして

まぁ私達の関係に今更そんなもの無いんだろうな


今回みんなで水族館に行こうと言い出したのは私だった
そりゃデートしたいなってのが本音だけども
最近ずっと軽音部のみんなと行動してたし敢えて澪と二人で行くのもおかしいし、誘ってみたところで「じゃあみんなの予定きいてみるか」といわれるが落ちだろうと思ったのだ


それに…

「…澪の笑顔が好きだからな」

「?…なにか言った?」

「なんでもなーい」

みんなと一緒にいると楽しい
楽しいと澪もよく笑う


そんな澪が好き
自分一人だけのものにしたいなんて独占欲はいらない

私は澪の手をぎゅっと握り締めた
この心地良い関係が崩れないようにそっと優しく

この水槽を泳いでる魚達も
狭い世界にいながらこんなにも綺麗にのびのびと泳いでみせてる
魚の気持ちなんて知らないけど、一匹でも二匹でもなく沢山の仲間がいるから

私も澪と二人だけじゃなくみんなといたいんだ

―今は…まだ、ね…



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