菊丸総受お題シリーズ
□『嫉妬』
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「大石…?」
滅多に見ないその表情。
普段どんなワガママを言っても
普段どんな勝手をしても
“英二は仕方ないなぁ”
なんて言って笑ってくれる大石。
彼のそんな顔を見るのはいつも一緒に居る菊丸でさえ稀で、菊丸は途端に不安そうに眉尻を下げた。
「おーいし…?」
制服の袖を控え目に引っ張って、もう一度名前を呼ぶと、ハッとした大石が気まづそうに視線をそらせる。
「いや、なんでもないんだ…」
「………」
言った所で菊丸にはお見通しなのか、大石に向けた視線をそらそうとはしない。
黙ったまま、アーモンド型の大きな瞳は真っ直ぐに大石に向けられた。
「ほら、帰ろう…」
しかし大石は何も言うつもりがないらしく、自然と止まっていた歩みを一人で進める。
一応菊丸を促しはしたものの、その距離は一歩、また一歩と離れていった。
「……っ大石ぃ〜」
泣き出しそうな菊丸の声に大石が慌てて振り返ると、菊丸はさっき歩みを止めた場所のままで、思った通りその瞳には涙が浮かんでいる。
「え、英二…」
駆け寄った大石はハンカチを取り出して、今にも零れ落ちそうな涙を拭ってやった。
「ごめんな、ほら………英二が不二と凄く楽しそうに話してたからさ…////」
「へ……?」
「クラスの話はやっぱり俺にはわからないし、何て言うか……ちょっと不二に妬いてたんだ…////」
“ちょっと”というのは大石のせめてもの悪足掻き。
それでも菊丸は心底驚いた表情で大石を見上げた。
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