菊丸総受お題シリーズ

□『試合前』
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越前ver



イヤな汗が背中をつたう。

さっき手塚が伝えた言葉はこの対氷帝戦という大きな試合を前に、菊丸の心に重くのしかかった。

「今日の試合、大石は出ない」

たった一言

だがその一言は菊丸にとって何よりも大きい。

(大石……)

握りしめた手は僅かに震え、チラリと見た備え付けの鏡の中に映った自分はまるで違う人間の様だ。



大石の抜けた穴は大きい

それがわかっているからこそ仲間の所で不安な顔などしていられない。

したくない。

「まったく大石らしーよな
ま、俺に任せといてよ♪」

その場はそう言って笑って平気なフリをするしか思い付かなかった。

“ちょっとトイレ行ってくんね♪”
と席を外したものの、強張った表情はなかなかいつもの顔には戻ってくれず、しかし時間には限界がある。

急遽決まった桃城とのダブルス。

公式戦はないにしても組むのが初めてという訳じゃないし、ダブルスの相性だって悪くないと思う。

先輩なんだし自分がしっかりしなくては…

そう思っていても…

「…っ」

鏡の中の自分の瞳が揺れ、ジワリと涙がこみ上げてきた。




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