殺人少女の旅

□序章
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「はじめ!!!」

審判の号令で私はなぎなたを握り、相手の男の子に向かってゆく。
相手の喉元に切っ先を向けて一歩踏み出した。
相手も切っ先を私の肩に向けて繰り出す。
私はそれを軽く避けながらさらに一歩踏み出した時、嫌な手ごたえがあった。

「やめ!!!やめ!!!」

審判が怒鳴っている。

「吉賀連都、戦闘不能、勝者、田中亜理亜!!」

救急班が吉賀に駆け寄る。必死に何かしようとしているが、無駄だ。
だってあいつは死んでいるのだから。私が喉仏と脊髄を砕いたから。
………ワタシガコロシタノダカラ………

「おい、救急車はまだか!!!」
「アリア、スゴイジャナイカ……オマエハトウサンノ………トウサンノ………」

みんなが言ってる事が解からなくなってきた。
白目をむいて倒れている吉賀に目をやる。あいつは強かった。
だがあそこで踏み出したのは私だ。私が殺したのだ。
その事実がわかってくると、回りが遠のいてゆく。
気が付くと私はまっさかさまに濁流に飲み込まれてゆくとこだった。
ざっと周りを見ると、紅い服を着た少年が同じように落ちている。その子を助けたいと思った。だがら力を使った。

「つかまって……!…はやく…!」

男の子に手を伸ばす。あとすこしで捕まえられる。よし、何とかなりそうだ。

「水よ、われらを受け止め、受け入れよ。」

呪文を唱えて身を硬くする。
水の冷たさはあるが、衝撃はあまり来なかった。

少年を抱きしめて流れに逆らわずに、岸を目指して水を足で蹴る。
右手に競技用の槍、左手には少年を抱えて。

「つかまれ!!」

女の人が伸ばした手につかまりたかったが、わずかに届かなかった。
水の何かが変わった。

『助かりたいか……』
「だれ?」
『われは世界を統べる者。そなたはとりあえずわれの目となりこの世界を見せてくれ。その瞳で見た物を、自分の考えで処理し、誰につくのか決めよ。そなたが役目を果たすならば、そなたの持つ力を強め、不老不死にもしてやれるが?』
「今の状況どうにかする!」
『よかろう。』

流れが止まったような空間の中、女の人が手を伸ばしている。
右手に持った槍を差し出す。
それを女の人が握り締めて引っ張る。

「これにつかまりな!」
「はいっ!」

女の人が持っていた縄につかまり岸を目指す。
女の人は少年の帯に縄の端をからげてから縄伝いに岸を目指す。

「せぇの!」

二人で縄を引っ張り、少年を引き上げる。
少年は気絶していた。

「命は助かったみたいだねぇ。」
「びしょびしょになっっちゃった……乾け!」

呪文を詠唱してなくても、きちんと乾く。
あの声の通り、私の力が大きく、強くなっている。
それに此処を、私は知ってる。本に出てきた場所だ。

「この川は、青弓川ですか?」
「あぁ、そうだよ。」
「この人はこの国の第二王子ですか?」
「そうだろうね。」

やっぱり、精霊の守り人の世界にトリップしてきたようだ。
つまりこの女の人はバルサで、この子がチャグム。

「はよう人払いせんか!!!」

そう叫んだ従者は、私達の泊まる宿を聞いて、チャグムと共に帰って行った。

「あ、あの、私、今日とまると来ないんですよね。」
『忘れておった。何でも必要な物が出てくるポシェットを渡しておらんかったな。』
「誰!あなたの事をなんと呼べばいいの?」
『この世界をすべるものだからのぅ……《じぃ》とでも呼んでくれ』

そういったのを最後にじぃは黙ってしまった。
私は、いつんのまにか肩からぶら下がっているポシェットに目をやる。

「あんた何処に泊まったらいいのかわからないのかい?」
「はい」
「だったら私と一緒に町まで行くかい?どうせ二ノ宮からの使いが来るんだ、同じ宿のほうが向こうにも迷惑がかからないしね。」
「そうですか。ありがとうございます!」
「ところであんた、名前は?」
「アリアといいます。あなたはバルサさんですよね?」
「どうして、初対面なのにしってるんだい?」
「噂で聞いた事があるので、もしかしたらと。」

結局この日は、バルサと同じ宿で過ごすことにした。でも、この後とんでもない事を頼まれるのに……どうしようか……どうにかなるかな。
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