未来予想図
□君だけの(土日)
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「ふふっ、田中君!梁太郎、せっかくの同窓会だっていうのにあんまり飲んでないの。だから、もっとお酒注いじゃって♪」
「ひょーかひ(了解)」
「なっ…崎本!」
崎本の言葉に、俺のコップの中から消えかけていたビールが再び溢れるほど注がれた。
「いいじゃない♪せっかくなんだから。」
「あのなぁ…」
「梁太郎、また背伸びた?」
「は?あぁ…3pとか…」
「やっぱり!前に会った時より高くなった気がしてたの!」
「…そうか。」
「…梁太郎、ピアノは?やってるの?」
「あぁ。」
「へぇー!プロ目指して?」
「いや、趣味程度。」
「ふーん?聴いてみたいなぁ、梁太郎のピアノ♪」
「…崎本」
「なぁに?」
「もう、その呼び方やめろ。」
「……え?」
「俺たち、もう付き合ってないだろ。」
「…でも今更‥」
「崎本」
「‥なんで?どうしたの、いきなり…」
「香穂が今だに気にしてる。」
「え…?“香穂”って…日野さん…?」
「結婚した。」
「…へ?」
「去年。」
「……そっかぁ……知らなかったぁ!もうほんと‥梁太郎ってば隅に置けないんだから!」
「だから、これからはその呼び方やめろ。」
「でもさぁ、香穂ちゃんはここにいないし‥」
「あいつが嫌がることはしたくない。」
「…梁太郎って‥私と付き合ってる時そんなんじゃなかったよね?」
「……」
「私…下の名前呼んでもらったことなんてないし‥そんな風に彼女扱いされたこと‥」
「もう彼女じゃない。嫁だ。」
「っ!」
「‥崎本、悪い。頼むから、香穂のこと考えて…」
「私っ…今日言うつもりだった‥!」
崎本が勢い良く立ち上がる。
目には大粒の涙。
「梁太郎とっ‥また…っ」
「崎本っ!」
崎本はその場から走り去った。
「土浦…今の‥土浦?」
俺は崎本を追って、飲み屋の外へと出た。
「崎本っ!」
「なんで追ってくるのっ?」
「久々に会ったクラスメイトと喧嘩別れなんかしたくないだろっ。」
「クラス‥メイト…」
逃げる崎本の足がゆっくりと止まる。
「‥梁太郎の中ではもう、完璧になかったことになってるの?私と付き合ったこと。」
「そういう意味じゃない。崎本」
「もう分かったから‥!」
「…崎本、俺は香穂じゃないとだめなんだ。」
「………」
「香穂しか‥あいつしか考えられない。」
「‥もう、いいから。…ごめんねっ。もう私、戻るから!」
「…崎本」
「…もー!可愛らしい奥さんが待ってるんでしょ?…土浦君っ!」
「……サンキュ。」
すれ違う瞬間、崎本は俺の肩を拳で軽く叩いて、こう言ってきた。
「お幸せに!」
崎本の目に、涙はなかった。
「…中学の同窓会……元カノ‥」
梁太郎が出て行ってから3時間。
『まだ3時間』というべきなのか、『もう3時間』というべきなのか分からないけれど、私はこの3時間、梁太郎のことしか考えられなかった。
「…はぁ。」
(同窓会っていったら…やっぱ盛り上がって‥)
「ばか香穂子。旦那さんのこと信じなさい。」
何度目になるか分からない言葉を吐き出して、私はテーブルの上に突っ伏した。
(……)
「そんな所で寝たら風邪ひくぞ?」
「!」
今ここにいるはずのない人の声が聞こえて、私は勢い良く顔を上げた。
「‥梁太郎…」
「ただいま。ちゃんと飯食ったか?」
「………」
私は、なんだかすごくほっとして、涙でぼやける梁太郎の姿をただ見つめていた。
「香穂?」
「っ…なんでもない!」
私は涙が溜まった目を見られたくなくて、梁太郎から目をそらした。
「…あいつとはもう同級でしかない。」
「…分かってるよ。」
「香穂。ちゃんとこっち見ろ。」
「……」
目を合わせられず、俯いたままでいると
「そうか、分かった。」
と言って、梁太郎が私の顎を捕らえて、目を合わせさせた。
「なっ‥」
「いいか。お前がどんなに俺を信じてなくたっていい。ただ、これだけははっきりと言える。俺は愛してないような女と永遠を誓ったりしない。」
「‥っ…」
その力強い言葉に、私の目からは堰(せき)を切ったように涙が溢れ出した。
「だって…っ」
「……」
「このままっ…梁太郎が帰ってこなかったらって、梁太郎…っ‥とられたらどうしようって」
「くっ‥子供かよ…。」
「梁っ…」
「…泣くなよ。」
そして、梁太郎は私の瞼に優しく口づけて、こう囁く。
「安心しろよ。俺は、お前だけの為にいる。」
END