キリリク

□淫らな君のその瞳
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目は口ほどにものを言う。
確かにこの言葉は的を得ていると思うようになったのはあの日からだ。


静かに二人、向かい合った中でヒロトの瞳を覗き込む。
見る。見つめる。
それをしばらくの間続けているといつも俺はあることを思う。

―――あ、見えた。

青味がかった薄い翡翠に確かな光が煌いた。
それに伴ってゾクリと肌が粟立つ。
今俺の背筋に走ったのは嫌悪でなく、焦燥だ。


「ヒロト」
「んっ…」


少し腕を伸ばしヒロトの柔らかな緋色の髪に触れる。
薄い唇からは溜息のような吐息が漏れ普段青白いまでに色味のない頬は盛大に赤く染まった。
こうやって自分から誘っておいて、そのくせ俺が少し触れるだけで大袈裟なまでに身体を震わせるヒロト。そのいつまでたっても初心を忘れない姿を見て俺はいつも言い難い感覚に襲われてしまう。
それは背徳への恐怖なのか、はたまた厚顔無恥な自分への羞恥か。…いや、それは俺じゃない。ヒロトの方だよな。

だってほら、ヒロトは確実に俺を求めている。期待、している。
それは紛れもない事実だ。

あの日、今にも泣き出しそうな顔で「好き」だと告げてきた日から、それだけは変わらない真実。


「ぁ…あの…円堂君…?」
「何だヒロト?」
「……手、繋いでも…いぃ?」


こんな時まで控え目な望みをそれは恥ずかし気に頬を染めてヒロトは口にする。
なんだそんなこと…と呟きヒロトの白い手に俺の手を重ねた。


「円堂君の手って大きいよね。それに豆が潰れて硬くて…さすがキーパーだなぁ…」
「そうか?」
「うん…この手に日本のゴールは守られてるんだよね。本当に、凄いよ君は…」


ヒロトは恍惚とした表情で俺の指先を見つめていた。
うっとりと、あたかも神聖なものでも崇めるかのような視線に俺は知らず生唾を飲み込んでしまう。


「ヒロトの手は白くて華奢だよな。確かに…俺とは違うかも」


そのまま指先を絡めるようにすれば嬉しそうに、そして躊躇いがちに自分もその細い指で握り返してきた。
でもそれ以上は決して動こうとしない。


いつだってそうだ。

ヒロトは自分からは何もしない。いつも訴えるだけだ。
俺が全て悪いかのように、ただ、動けと。

それに言いようのない焦燥感を感じるようになったのはいつからだったのか。
最初は違ったんだ。ただ、俺がヒロトからの告白を断ってヒロトのプレーに影響でも出たらどうしようと、そんな不誠実な理由から告白を受け入れただけだったんだ。
だから少なからずヒロトに対して罪悪感とか後ろめたさみたいなものを感じてもいた。
なのに、いつもいつも、結果的に俺だけがヒロトに触れ、求めるような形にされてしまうことに気付いてから俺の中で何かが変わってしまった。

そしてその時に今までヒロトに抱いていた微かな罪悪感さえ、姿を変えたんだ。
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