キリリク

□"キミガワルイ"
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「俺は…"キミガワルイ"と思うよ…風丸君…」


相変わらず毎日陽の下にいても一向に生白い顔をしたままの基山が唐突に口にした言葉は俺を少なからず混乱させた。


"キミガワルイ"…?


一体これは俺に対する何の挑発だというのだろうか。
"キミガワルイ"なんてついさっきまで、仮にも同じチームで練習をしていた人間に言うことではない。
こちらに何か落度があったならまだしも、今日は特別失敗もしていないし何より基山とはペアを組むことすらないのだから先程はパスすら出し合っていなかった。
だから基山が俺に対して呟いた言葉は心外としか言いようがない。
勿論俺は憤慨した様子を隠すこともなく基山のことを睨み付けた。
それくらい別に構わないだろ?


「いきなり随分なことを言ってくれるじゃないか。……どういう意味だ?」


俺の声は思ったよりも低く辺りに響いた。
しかし目の前の基山にはその俺の怒気が全く伝わっていないのか、………いや、そんなことは最初から関係がないというような目で俺を見返してくる。


それはどこまでも澄み切った翡翠を映していて。
まるで清流を流れる水のように淀みなんて知らないその瞳。
俺の一番嫌いな、いつも俺を哀れむように見つめてくる基山の瞳は憤ったこの感情を余計に逆撫でした。

やはりこいつのことは気に喰わない。
エイリア学園の時は円堂以外の人間なんて眼中にないと語っていた瞳が、今は俺を見下しているようだ。


「もう一度聞くが…さっきの言葉、アレはどういう意味だ?」


先程よりもなお低く言葉を紡げばようやく基山は目を臥せる。
その様子に少しばかり気が晴れたように思った。

基山の薄い翠色のソレは見ていて吐き気と同時に言い様のない居心地の悪さを感じさせる。
その瞳が臥せられた。
無駄な優越感と、少しばかりの安堵を得る。
そんなことでも俺にとって重要だった。


「…ごめん、いきなり変なこと言ったよね。……気にしないで…って今さら無理、だよね……?」
「そりゃぁな…で、何が言いたかったんだよ?早く言えよ」
「……」


しかしさっきから一体何なんだこいつは。
自分から問題の種を蒔いておいて核心をはぐらかす曖昧な態度。
別に言いたいことがあるなら言えばいい。
はっきりとしろ、そしてさっさと終わらせろよと思わず言いたくなるのを堪えるがやはり本音としてはこいつに対して罵る言葉の一つでも言ってやりたいところだ。

別にその口は飾りじゃないんだろ。
……じゃなきゃそもそも"キミガワルイ"なんて言えないよな?…ってさ。


あぁ苛々する。物凄く。
もしここがグラウンドじゃなかったら、円堂がいなかったら手を出していたかもしれない。
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