DREAM LAND

□4.スピードスクェア
1ページ/1ページ


「おっ!いいもの持ってんじゃん、しょうね〜ん!」
 マリンやデンゼルも楽しめるようにとワンダースクェアと向かう途中で、ユフィとヴィンセントと会った。ユフィの両手にはかなりのモーグリぬいぐるみが抱えられている。見るとヴィンセントも片手に景品が詰まった袋をぶら下げていた。
「ザックスがバトルスクェアで勝ち取ってくれたんだ」
 デンゼルとユフィが話している横で、ヴィンセントはつと視線をクラウドの足元に落とした。それを受けて苦笑しながら「たいした怪我じゃない」と答える。ヴィンセントも「そうか」と言ったきり黙った。
 実はこの二人、雰囲気とか結構似てるんだよな。沈黙の中にもお互い分かり合ってるような、正直ザックスにしてみれば妬けてくるものがあった。
 大人気ないとわかっていても、この場をなんとかしたくてザックスは周りを見回した。

「なんだ、ありゃ」
 その入口には「スピードスクェア」の文字があった。昔はなかったアトラクションだ。レーシングゲームかな?と首をひねる。
「なぁ、クラウド。スピードスクェアってなんだ?」
 聞いた途端、サッとクラウドの顔が青ざめる。なんだかここに来てからクラウドの顔が硬直するところを何回も見てる気がする。実はあんまり楽しめてないんじゃないか、とだんだん不安になってきた。そういえば、昔来た時だって楽しそうに笑って遊んだアトラクションは限られていたっけ。
 そんなクラウドの顔色とは正反対に、子どもたちは色めき立ってパンフレットを広げた。ついでにと見せてもらえば、三人揃って「あぁ…」と声にならない溜息を漏らす。これは…拷問に近いものがあるだろうな、と同情の目でみてしまうのは仕方がない。
「あれは…乗り物なんかじゃない」
「そーそー。あんな物作ったやつの気が知れないね。もう思い出しただけで…ぅぷ」
「やめろユフィ。こっちまで気分悪くなってきた」
 普段は憎まれ口を叩き合う仲の二人が口を揃えて否定した。隣ではティファが苦笑しながら「ただのシューティングゲームなんだけどね」と呆れながらも、余程のものなのか、マリンとデンゼルにワンダースクェアでいいかと聞いている。彼女らは異論はないらしく、元気に返事しながら駆け足で入り口へと向かった。
「ティファはともかく、あの二人は楽しめるんじゃないのか?俺はここでまってるから、皆で行ってきたらいい」
「何言ってるの!あの子たちは、クラウドと遊べるのが楽しみでここに来んだから。クラウドが楽しくなくちゃ意味が無いよ」
 ほら、クラウドの得意なスノボゲームもあるから、と背中を押され戸惑いながらも子どもたちの後を追う様にワンダースクェアの入り口に飛び込んだ。
「そんじゃーアタシたち、シドたちん所に行ってるからさ。ホテルには六時でいんだっけ?」
「ユフィは未成年だからカジノだめでしょう?」
「コイツのつきそいだって!…一応」
 後ろでヴィンセントが肩を竦める。
「もう!程々にしといてね。それじゃ、ロビーに六時で」
 そう言ってティファも飛び込んだ。後に続こうとしたザックスを、ユフィが呼び止める。
「何だよ」
「折角のお役立ち情報を持ってきたユフィ様に向かってその言い草はないだろ〜?」
 ぴく、と耳を動かせば目の前に突き出される手のひら。
「…オレ今マテリアなんか持ってねぇよ?」
「バトルスクェアで、なんかレアアイテムゲットしてんじゃないの?」
 クラウドにあげるつもりだったのに、とブチブチ言いながらポケットからタマのすずを取り出した。さも悪巧みしてますみたいな笑みを浮かべながら受け取られると、自分の選択肢に間違いがあったのではないかと不安になる。
「やっぱ止め」
「あんたんとこの若社長、ここに来てるってさ」
 ザックスの迷いを遮るように一気に放たれた言葉はある程度の破壊力を確かに持っていた。
「マジかよ…」
 頭を抱えて呻く。あの坊ちゃんが何の企みも無しに動くなど有り得ない。
「ソースは?」
 聞くと、ずっと黙って後ろに控えていた元タークスを指し示された。ならばガセではないようだ。下手に巻き込まれる前にここを離れた方がよさそうだ。あのバトルスクェアにあったレプリカといい、用心するに越したことはない。
「サンキュ!…せっかくタダ券もらったの勿体ねーけど、仕方ない」
 二人に別れを告げて、みんなが待ちくたびれてるであろうアトラクションの入り口へと身を投じた。


「有名人も大変だね〜」
「……」
 無言のまま踵を返して歩き出したヴィンセントの後ろを慌てて追いかける少女の顔を見れば、ザックスは自分の考えがまだ浅いことを思い知らされたはずだ。クラウドなら彼女の二重三重の企みに何かしら気付けたのだが、如何せんザックスはこの少女との付き合いは短い。
「楽しくなってきたぞ、っとぉ」
 その言葉を聞き、前を歩くヴィンセントは軽い罪の意識を感じずにはいられなかった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ