DREAM LAND

□6.Epilogue
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「それじゃあね。あまり無駄遣いしないように、ね」
「大丈夫、財布は俺が持ってる」
「なら安心ね!」
「もうしねーっての」
「あたしと約束したもん!ね?」

 二日目の朝、ゴールドソーサーのエントランスホールでクラウドとザックスは一行を見送った。
 昨日はあれからなし崩し的にタークスの面々も交えての酒盛りとなり、お陰で体がだるさを訴える始末。ルーファウスは舞台を見届けた後、「今日は面白いものが見れた」とタークスの主任と帰っていった。…らしい。
 帰りの足として、二人はチョコボを二匹、チョコボ房につないでもらっていた。この体調でエッジまで行くのはいささかしんどい。かといって、アトラクションで遊ぶ気にもなれず。
「…どうする?」
 傍らの恋人に目をやれば、同意見らしく気怠げに首を左右に振った。
 大して持ってきていない荷物は、ホテルの部屋に置きっぱなしだ。二人は一旦戻ることにした。





「ねぇ、ザックス」
 演出で稲光が窓の外から室内を照らし出す。どうにも落ち着かない。
 それはこの部屋の内装のせいか、それとも風呂上りのクラウドから漂ってくる石鹸の匂いのせいか。
 クラウドは怖くないとは言っていたがやはり同じように落ち着かないらしい。ベッドに腰掛けるザックスの元まで来ると、その隣に並んで座った。
「っ!」
一瞬触れ合った二の腕が、意味もなく震える。
「怖いわけじゃないけど…ちょっとだけ、手を繋いでてもいい?」
 …ああ、もう我慢できません。
「手も、体も繋げちゃえばいいよ。そしたら、怖くない」
 指をからませ握りしめたクラウドの右手と、自分の左手。力を込めれば、ありったけの想いでそれに応えてくれた。
「うん…」
 横たわったクラウドの髪に指を差し入れて、浅いものから徐々に深いキスへと変えていく。
 雷光に照らし出されたクラウドの髪の毛もまた稲妻のようで、とても綺麗だと思った。





「…なんかさ、」
 ゴーストホテルの部屋に戻り、ベッドにごろん、と体を投げ出した。クラウドは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出している。自分もコーヒーより水な気分だったから、もう一本、と言ったら宙を舞ってボトルが飛んできた。
「昔を思い出したら」
「シないからな」
 ザックスの考えてることなどお見通しなのだろう。先手を打って言われた言葉に愕然とした。
「えっ!?えぇ〜?だって昨日してないじゃん」
「当たり前だバカ!」
「オレ、あのキスからずっともやもや溜まりっぱなしで」
「一人で抜いてこい」
 クラウドぉ〜。と情けない声で誘う。
「朝っぱらから盛るな」
 ガバっと体を起こして、素足のままでベッドから降りた。チェアに座って窓の外を見ているクラウドの、上に覆いかぶさるようにして肘置きに手を付く。
「なに?昨日のことまだ怒ってる?」
「…別に」
 一瞬だけ重なった視線も、クラウドの方から直ぐに逸らされた。
 相変わらず何も無い窓の外を見たままのクラウドの首筋に顔を埋めれば、「やめろって!」と押し返されそうになる。けれども、昨夜からずっとずっと我慢してきたんだ。もう我慢なんてできない。
「ザックス…!」
「朝じゃねーよ。今は夜」
 窓の外、暗闇にまた光が走る。
 ふぅ、と溜息が聞こえてきて、ささやかな抵抗は影を潜めた。





 また来たいね、と笑って言ったクラウド。
 いつか、必ずまた行こうと頷いたザックス。
 悲劇が二人を切り裂いて、クラウドは記憶を封じ込めた。
 旅の途中で寄った時もそれは思い出すこと無く。
 ただ、自分の正体を知って、忘れていた人のことを思い出してから。
 過去の思い出は心に容赦なく突き刺さる幾千もの刃となった。
 旅を終えてから、その時既に閉館の憂き目にあっていたそこに、いつかマリンや小さな子どもたちに夢を与える場所になればいいと言って幾ばくかの寄付をした。
 それで想い出を忘れていた事の免罪符になるわけではないけれど。
 あの日の二人が、また来ようと約束を交わした場所だから。
 無くしてしまったら、約束さえもなかった事になりそうで。
 …何かが。過去にすがり付ける何かが欲しかったのだと。
 クラウドはそう言って腕の中静かに涙を流した。

「――クラウド。また、来よう」
「うん。…うん」
 ベッドの中でまどろみに揺蕩う恋人の意識は半分夢の中に入り込んでいる。髪を梳きながら、額に口付けた。
 約束なんて、不確定な未来には必要ないものかもしれない。だけど、人は夢を見ることをやめない。だから、約束をする。「いつか」「きっと」その時のために。
「なぁ、クラウド。約束…な?」
 守るために在る約束じゃない。明日への希望を失わないための、それは願い。夢。

夢の国で、かつての自分たちが笑っていた。

繋がれた手は、未来への希望を握りしめ―――

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