典明ば

□夏祭り。
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涼しげな色のティーシャツに、細身のジーンズ。


普段 私服を見慣れないため、
待ち合わせ場所に俺を見つけて 嬉しそうに手をあげて笑ったあいつに ひどくドキドキとした。


俺まで駆け寄り「ごめんね、遅れたかな?」と下げられた眉毛にもまた 胸が鳴った。

人混みを掻き分けて買った、真っ赤な色のかき氷。
それに練乳が これでもかってほどかかってる。

それが似合ってしまう高校男児に呆れた。


「…似合うな」
頭を撫でて言えば、

「それってバカにしてるのかい?」
と睨みを利かせられてしまった。

「いーや …一口くれるか?」
「ん」
あーん

と言う声と共に 俺にスプーンに乗るかき氷と 上目の視線が向けられる。
目をパチクリしてから、照れを隠して それを口に受け入れる。


「ふふッ 似合わないね承太郎」
「…それはバカにしてるのか?」


先ほどと立場の変わった、内容の変わらない会話に笑い合う。


「…甘ったりい」

よくこんなもん食えるな。

甘い口の中に 持っていたペットボトルの水を流し込む。
こちらを見上げて「褒めてるんだよ」なんて笑った恋人の頭をペットボトルで小突いた。

「痛いなァ」

シロップで薄く色づいたピンクの唇。

「さっさと食っちまえ」
気になってしまう それから目を反らす。


かき氷で両手が塞がったままじゃ 手だって 繋げやしねえぜ。

やれやれ 呆れた俺にまた「あーん」と声が降る。





(オイコラ…キスするぞ)
(え、何、なんで怒ってるんだい!?)


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