頂物&捧げ物

□太陽
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あの時差し出された手を
俺はずっと見つめた。
ずっとずっと拒絶していたものなのに
あの時だけは希望に見えて
鬱陶しかった太陽が綺麗に見えて
俺はその手を掴んだんだ。


太陽



ノルダの明るい道から離れた暗い場所に俺はいた。
いつからだとか、両親が誰だとか、そんなものは知らなかった。
ただ気付いたら、ここにいた。それだけだ。
町の人間は誰も俺に興味を持たない、俺にとってはありがたいことだったが。
俺に興味を示すのは、ノルダの外れにある変な店の商人だけだろう。
孤児をかくまい、孤児を売る。そんな商売を売りにしている商人だけ。

俺はいつものように、その商人から逃げながら、町を走っていた。
指差し笑われ、陰口を言われるのはもう、慣れた。
誰も、助けを出そうとはしないし、俺自身そんな奴がいたら、嘲笑うだけだ。
こんな薄汚い子供を救って何になる、どうせ自分を救いたいだけだろう、偽善者が。そう言って。

走りながら、先程から視界の隅に映るモノを払った。
どうやら、他の奴らには見えないらしいコレは、俺が物心ついた時から見えていた。
ぼんやりと映るソレを、俺は何なのか知らなかったし、知る意味も無いと思っていた。

だが、今日だけは違った。
いつも大人しいコレは、今日だけは鬱陶しく感じる。
あちらこちらと俺の周りを動いて、何かを知らせようとしている。

……そこまで考えて、馬鹿馬鹿しい気がしてきた。
この何なのか分からないモノが何を知らせるというんだ。
このぼんやりと映る、色のついた空気のようなコレが、一体何を…。

本当に今日だけは何かが違っていたし、変わっていた。

このぼんやりと映るコレに俺は気を取られた。
ただ何も考えずに走っているのに、何故だかコレに操られ何処かに向かって走っているような気分になった。
このまま走っていけば、何かが待っているかも知れない。

そんな馬鹿馬鹿しい事を考えてしまっていた俺は、目の前なんか見ていなくて。
当然目の前にいる男に気付く訳もなく。


5秒後に俺は男とぶつかった。



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