頂もの♪

□捨てる者あれば、拾う者あり!されど捨てた者が戻ると思うべからず!
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決して、その手を離してはいけなかったのに・・・・・。

愛しい我が子の手を離してしまったら、すぐさま離した我が子に手を伸ばしてくる存在がいると分かっていたのに・・・。

手離してしまった我が子に再び伸ばした手は、もう2度と我が子には届かない・・・・・。





    


「ねぇ、お母さん。アレはなに?」


小学校に上がってから間もないツナが、塀を指さしながら奈々に尋ねた。
尋ねられた奈々が、幼いツナの指差す先を見て・・・・・・思わず顔を強張らせる。


「ツ、ツッ君。あなた一体、何を見ているの?」


ツナが指差した先。
そこには・・・・・・何もいなかった。
そう。“何もいなかった”のだ。


「何って・・・そこに変なのがいるよ?しっぽが3本もある猫が。」

「っつ〜!」


幼いツナがそう言った瞬間、奈々はますます顔を強張らせた。

なぜなら彼女には分かってしまったから。
自分が持ちえなかったものが・・・この身に流れる血から受け継ぐことのなかったものが・・・あろうことか我が子に受け継がれ発現してしまったということに。

そして奈々は、全身が凍りつくほどの恐怖心を感じ・・・・・自分でも無意識のうちにガッと強く我が子の肩を掴んでいた。


「ツッ君!」


常にない母親の様子に、ツナが驚いたような顔をする。


「ツッ君。よく聞きなさい!」

「お、お母さん?」

「お母さんとずっと一緒にいたかったら、絶対にこの事を誰にも言ってはダメよ?」

「えっ・・・・・・?」

「人には見えないものが見えること。それを絶対に母さんと父さん以外の人に言ってはダメ。いい?ツッ君。」

「う、うん・・・・・。」


いつも優しい母親が怖い顔で自分に言い聞かせているのを見て、幼いツナもこれはただ事ではないと思ったのだろう。
驚いた顔をしながらもおずおずと頷く。

それが遠き日に親子で交わした約束。
けれどこの約束が、仇となってしまうとは・・・・・・この時奈々は思いもしなかったのであった。
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