鬼円
□彼の海に溺れる
3ページ/3ページ
抱き寄せられた体は、
お互いの体温を確かめ合うように角度を変えて、より密着度を増す。
「心配しなくても大丈夫だ。俺はお前を心から愛している」
俺の表情一つで思ってることが分かったとでも言うのだろうか。
鬼道の言葉には迷いがなく、しっかりと俺の心に響いた。
「…良かった。俺、時々不安になるんだ」
「不安になる必要はない」
ゴーグルの中の鬼道の瞳は、優しい朱色で俺を見つめている。
「今、満たしてやる」
そう言って鬼道は口の端を緩やかに上げた。
抱かれていた体から鬼道の体温が消える。
ちゅ…
その代わりに唇に柔らかいものが重ねられた。
そうかと思うとすぐに唇は離された。
鬼道が「これはジャマだな」と言ってゴーグルを外し、また唇を重ねる。
俺の人生初のキスは、
恥ずかしくて、どきどきして、
長くて甘い、
触れるだけのキスだった。
さっきまでの不安の海はどこにもない。
きっと鬼道という名の海に溺れて、
溶けてしまったのだろう。
end