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□頑張ってるの知っているから
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「お前、こんなとこで何やってる」
「片倉先生」
普段着のななが日曜日の昼下がり、ピンクのリードを持って公園のベンチに腰かけていた。
年頃の娘らしい短いデニムのスカート。
職業柄短いスカートには免疫がある方だが、かといって真白い娘の生足は何とも目のやり場に困るものだ。
俺はスーパーに行く途中だった。時間の在る時は健康のため出来るだけ近場は歩いて行動するようにしている。俺はわりと散歩好きだ。
「そいうえばお前、ここらに一人で住んでるんだったな。言わなかったが、俺はそこのマンションに住んでるんだ」
「私の家はそこの角を曲がったところのお寺の隣なんです、片倉先生も寺町だったんですね、しかもすっごく近い」
「学校からは電車で40分はかかるから、寺町は通学には少し遠いよな」
「はい」
俺がそういうと何処からか茶色い犬が走ってきた。
「ポチっ」
咄嗟、ななが何をいったのか理解できなかったが、それが犬の名前だと少し遅れて気がついた。
その犬にななが明るい声をかける。
なんだか学校にいるときよりずっと快活な声だ。
俺の姿を見て5メートル位の距離を置いて立ち止った犬。
「俺のこと警戒してるか」
「そんなことありませんよ」
なながおいでと言うと犬、いや、ポチはてってってと俺の傍までやってきてじっと俺を見上げた。
「ポチ、学校の片倉先生だよ、いいこにしてね」
「………」
犬はその言葉を聞くと俺の脚元に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
そのあと納得したように、口をあけてへっへっと笑うように理解を示した。
「賢い犬だな、人間の言葉が分かるのか」
「片倉先生のこと気に入ったみたい」
俺の隣にしおらしく座ると、やっぱりへっへっと笑う。
それにしても犬の名前がポチとは、ひねりのなさずぎるネーミングセンスだ。平凡過ぎて逆に非凡な感じさえする。身をかがめて頭をなでてやる。近くで見るへっへっと笑う気の抜け切った顔が何だか面白い。
「先生はお出かけですか?」
「ああ、喉が渇いてな。買い出しだ」
お前、飯はいつもどうしてるんだ、とかつい聞きそうになって慌ててせきとめた。
俺はこいつのことを知っている。
今でも他の奴よりはこいつの現在置かれた状況に関して詳しい。
こいつの境遇は俺に似ている。
だから、自分のことのように気にしてしまうきらいがある。
しかしななは女の子なのだから、教師とはいえ、男である俺がこういう干渉はあまりしない方がいいだろう。
「じゃあな、明日は忘れ物しないようにな」
「はい」
そいういってななとポチに別れを告げて俺はスーパーへと向かった。
俺は一人身が長かった。大学に入って、学生のころはまだそれなりに男女関係も持っていたのだが、元来一人でいる事が嫌いではなかったから、就職し、忙しさに翻弄され、いつの間にか女っけのない生活が染みついている。
1年5組にいる政宗(知り合い)にもそういうところを注意されているが、学園で腐るほど若い女は見ていて、どこかうんざりもしているのかもしれない。
しかし、一人で住んでいると、食生活はおろそかになりがちで、自分一人のために料理などしたくないなと感じることが多々ある。
ひょっとしたらななもそうなんじゃないだろうか、と考えたら、俺はいてもたっても居られなくなってしまった。
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