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□不器用な手頸
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夏みたいに暑い夜、そんな日の話。
駅前近くの大通りでどっかの中年の男と一緒に歩いてた。

あの子のこと気になってどうしょうもない今日この頃。俺様の妄想は膨らむ。
隣のクラスの長い茶色い髪の毛。先っぽがくるんと巻いてる。



何であの子授業が終わると友達とのアフタースクールぺちゃくちゃもそこそこに出て行くの。

バイトでもしてんのかと思って連れの子に聞いたら、ななちゃん部活なんです。だってさ。
あんまり大きい声で話したりとかしないんだろうなきっと。なんか大人っぽい性格とかしてんのかな。



俺様の妄想が広がりすぎないうちにどうにか彼女に話しかけよう、数学の時間、片倉のおっさんにどやされながらそう決めた。




晴れ渡る空の下、1組と2組の合同体育で、さわやかにロングシュートを決めた俺様は観衆の子猫ちゃんたちの可愛らしい声援を背に、さっきのロングシュート見ててくれたかなとちらっとその子を観察するも。
そんなの見てませんよね、笹川さん。笹川さんはぽかんとして職員室の方を眺めている。
あんたあんだけキャーキャー言ってんだからちょっとはこっち見なさいよ。おっとりさんな感じを醸すのもまぁ可愛いんだけどさ。


「ったく、もっ!!」


一人で勝手に腹が立ったので、俺は汗をぬぐいながら水飲み飲み、その子のもとへ一直線に向かった。

教員が、はい次のチーム、ほらそこの女子授業に参加しろーと冷めた指導をする中、それに混ざろうとする笹川さんのジャージの袖を摘まんでちょっとちょっと、と手招きしてグランドの階段のところで引き留めた。

珍しく二つくくりにした茶色の髪がくるんと風に揺られてなんか今日は特に可愛い。




「なぁ、笹川さんってさ、援助交際でもしてんの」

「え??」



笹川さんは俺様の唐突な質問を全く理解できていないような、そうでもないような、わけのわからない一言を発して、俺を挙動不審に見つめた。



「俺様見ちゃったんだよね、金持ちそうなおじさまと笹川さんが歩いてんの」



その言葉の後に、しまったみたいな顔をした笹川さん。
やっぱしあれは笹川さんだんだな、と俺はこの時確信がいった。




「いや、ちょっとさ、気になって」

「さ、猿飛君には関係ないでしょ」


「困ってるみたいに見えたんだよ」


関係ないでしょ、といってその場を立ち去ろうとした笹川さんの腕を掴んでその場に引き留める。


少し強引だったろう。
彼女のうろたえる表情に俺はちょっとだけ自由になれる。
今俺はジャージの短パンのポケットに手を突っ込んでだらしなく笑ってるんだろうから、笹川さんは結構嫌だと思う。
笹川さんはそれきり言葉を発してくれなくなった。



「ねぇ教えてよ。松永先生とどういう関係?」



「松永先生」という発音に笹川さんの肩がぶるっと震えた。
この際、嫌われても良いか。だって気になる。気になる子の気になる人、プライベート。


誰にも言わないからさ、と耳元に呟くと、掴んだ手頸からぴしっと何かがはじけた感じが伝わった。



「なっ何にも無いんだってば!!遅くなったから送ってくれただけ!!好きなのは私だけなんだから!!何にも無いの!!」


笹川さんは強い口調で俺にそう言い放って手頸を離そうともがいた。けれど俺はその手を緩めてやることが出来ずにそのまま笹川さんの涙を拝見することとなる。



「ううっ・ひく」

「・・・・」


俺様が手頸を拘束しているせいで、笹川さんは反対のを使ってジャージの袖で目の涙を一所懸命拭った。


友達づきあいもそこそこに部活にのめりこみ、その先生と出かけたりして、一生懸命大人っぽくなろうとしたりして。


笹川さんはやっぱり恋するけなげな乙女だったんだ。


どっかでこの女、魔性的性質を持っているのか、とか思っていたけど、普通にかわいい女子校生じゃないか。




「なんだ、相手にされて無いのちゃんと分かってんだ。それなら俺様なんか安心。」

「うううううるさいなっ!!猿飛君離してくれない?!痛い!」


あんまりむきになるから顔が真っ赤になって笹川さんはトマトみたいになった。


ゆっくり手を離し、持っていたペットボトルの水を渡すと、それを間髪いれずに彼女は一気に飲み干した。


「いや、いい飲みっぷりだね」


本当は、わお間接キス〜とか言いたかったけど今の笹川さんに言ったら俺様ぶん殴られそうだ。


「ごめん、怒らすつもりはなったんだけどさ、なんか俺様気になっちゃって笹川さんの事」



「水!有難う!!」




俺様のやんわりとしたアプローチに対して完全スルーで逆に男気あふれる礼を簡潔に一言だけ述べると笹川さんはふんふんっと鼻息が出るような勢いでグランドに戻っていった。


「・・・」


その直後3メートルくらい歩いて行ったところで喋っている元親に思いっきりぶつかってすっ転んだ笹川さんの後姿を眺めながら俺は思った。


「おっ、わりィな。おい、あんた大丈夫か?鼻血出てんぞ!(元親)」

「だだだ大丈夫っ!!」

「ふら付いているで御座る!」





また話しかけてみようって。



「お〜い、笹川さーん、何やってんのさも〜」




不器用な手頸

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2011.5.5鴬(ヨウ)


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