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□夜明け前、涙
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「なな、卿は幼いころ良く庭で毬をついてみせてくれたな」




ベットの中で泣きべそをかくななの背中をさらりと混ぜながら久秀は笑った。


少し機嫌の悪いななは返事もせずに久秀に背を向けて鼻をすする。



先ほどまで激しく体を弄ばれ、翻弄し、今も尚体を繋がれたままの状態にさせられている。


だいだい色の照明のお陰で薄暗く温かい部屋。

もうどれほどの時間がたつのか。
久秀は満たされ、至極満足げな表情を浮かべてベットに横たわるのだが、ななは疲労感と脱力感と弄ばれた怒りで悔しがり涙して無言の反抗をしているのだった。




「あの頃の卿は実に純真無垢で愛らしかった。私に池の鯉を一緒に見ようと誘ってきた事を覚えているかね」


相対して、当てつけがましくも酷く饒舌な久秀にななは毛布を強く抱いた。
顔を埋めて知らんふりを決め込む。



「なな…どうした。眠くなったのかね」

機嫌のいい声色でななの髪を混ぜると、久秀が己の下半身を軽く前後に揺らしてななに返答を催促する。


「…あぁっ」

「…なな」

まだ寝るのは許していないという意味を込めて笑うと、ななの腰を再度引き寄せた。



ななは下腹部に伝わる律動刺激の波から逃れようとベットサイドのテーブルに腕を伸ばして離れようとする。


だいだい色の光を放つ照明の笠に手が届いても、すがる処が無いのだからやりようがない。

「あ、離し、」

あっけなく体は引っ張られななは小さな悲鳴を上げながらベットに沈む。



ななの身体を腕に収めると、久秀は下半身を繋げたままななの上に被さり、今夜情事を始めた時と同じように又体制を整えた。もうそれが幾分も遠くの事のようにななは感じる。けれどななが通らなければいけない夜はまだまだ長かった。



「いやぁっ…許してっ」


力を精いっぱい籠めて自分の胸に爪まで立てて拒もうとするななの顎を覆い、久秀は容赦なくシーツに抑えつけた。

「ふううっ…」

「クスクス…まだ抵抗する余力があるのだ、限界ではないだろう」


毎回毎回、中途半端な抵抗(本人は必死)をするななに久秀はいつも溜まらない気持になった。
涙を浮かべて懇願する顔も背けて苦しそうにする顔も然り。



「なな、さっきの話の続きだ。覚えているだろう」


指を指しこんで口内をかき混ぜるとななの赤く腫れた目にまた次の涙が止めど無く溢れた。


「や、あぁ…っ」

ななの体は久秀の与える快感に溺れていたが、久秀はななその存在にこそ、溺れているに違いなかった。



それは久秀本人が誰よりも承知している事でもあった。

「卿は今でも純真だ、とても愛らしいと思うよ」



男らしく大胆に口元を緩めて、久秀はななの顎を舐め上げる。
肉食獣が小動物を貪る前の舌慣らしのように、ななの頬がぞくりと緊張を孕むのだ。




骨董屋の祖父はななによく言った。
「松永さんの言う事は良く聞きなさい」
「松永さんは上お得意様だから」
祖父は言った。確かに間違いではなかった。

祖父の商いが上お得意様によって何とか続き、父も母もいないななが中学校に通い満足に生活出来たのもお金を貸してくれた松永さんのおかげだ。



唇を重ねようと眼前に迫る久秀の静かなる欲情の炎を秘めた瞳。
震える手頸。
詰まる息。
閉じられない瞼。
ななは久秀がいちいち恐ろしかった。



「おっ覚えてるっ…あなたがおじいちゃんの骨董を狙って家に出入りしてっ」


「なな、置かれた状況を踏まえると今のは大変立場を悪くする発言だ」




そんなことは分かっている。

けれどそいうくらいしかななに出来る反撃はなかったのだ。

久秀は近付けた顔を今一度首元に逸らして鎖骨に強く吸いつく。
ちりっと一瞬強い刺激があり、ななの表情は歪んだが、言葉は止めど無く発せられた。



「優しい人のふりをしておじいちゃんに付け寄って、お金を借りさせて、骨董を奪って、私の事までっ……ああっ」



ななが何を言ってもななの秘部には久秀のものが入っているし、久秀はななの乳首を愛撫する。



「ひくっ…ひっく…」

何一つ敵うものが無いと良く知っている。
だから最後は、もう嫌だ、と泣くしかないのだ。



そしてそれをこの男は嬉しそうに眺める。
今だってそう。




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