おそ松さん

□おそ松くんの松野家次男育成記
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六つ子の次男坊をどうにかしてやろうと思い立ってからどうにかしてやった日までの話。





事のはじまりは小2の夏だった。
一体何世紀前の話だよ、なんて叫び出したいくらいには随分昔だし正直その頃の記憶なんて断片的でしかないわけだけど。でもその日のことだけはやたら鮮明に覚えている。


「うわカラ松、なんだよそれ!うんこじゃんきったねー!」


小2のあの頃なんてものは外で走り回っていれば一日が終わっていた。
といっても今も大して変わらない生活を送ってるわけだけど、そこは俺の愛敬に免じて今はあんまり触れないでおくとしよう。


とりあえずだ。その頃の俺達の中には個性なんて小難しいもんを自覚した兄弟は誰もいなかったし、悪戯には長けてもいかんせん揃いも揃って知性の欠片も無いクソガキだったもので。とにかく楽しければそれでいい、そんな年頃だったのだ。


「う、うんこじゃない…」


その日の俺は暇を持て余していた。丈夫だけが取り柄のようなクソガキが、夏風邪を拗らせて学校を休んでしまったのだ。しかし、どうやら一日寝たらすっかりよくなってしまったらしい。うーん誤算も誤算。またにない機会なんだしもうちょっとしおらくしていたかったのに、ああ残念だ!なんて独り言が絶えないくらいには暇で暇で、だから一番初めに帰ってきた次男坊を見るや否やうんこ扱いした。
…というと少し語弊があるがそれもこれも次男坊が悪い。正確には着ていた服が悪い。だってその日のカラ松は白いTシャツの腹のあたり一帯、べっとりと茶色いシミを作って帰って来たのだから。


「給食のカレー…おれ、ぼーっとしてて。うしろから押されてついちゃった、どうしよう母さんに怒られる…」
「うわーべんしょーだなべんしょー、だれだよ押したやつ!こてんぱんにしてやろうぜ!」


そういつものノリで言ったつもりだったのに目の前の弟があまりにも不安げにこちらを見るものだから、あれ?と思う。

「でも…僕がぼーっとしてて邪魔だったから」
「はぁ?おまえいっつもそう!ふつー先に手出しするやつがわるいだろ!ああもう!よわっちーなこのポンコツ!」



そんなことばっかり言ってるとな!おまえずっとワルモノのまんまだぞ!





「へっ…?」と息を詰めたカラ松に、思わずニヤリと笑う。そうだ。こいつは普段結構サバサバしてるけど、実のところは臆病で泣き虫で誰よりも優しい性格なのだ。だからこそ他人の悪行をよく持ち込み、下手に寄り添おうとしては不運に見舞われている。
いつも通り同じクラスの俺が傍にいれば、今回だって相手をカレーや牛乳まみれにでもしてやれただろう。でも今日はあの教室にカラ松一人だった。兄弟の誰かがいないと悪巧み一つできないということなのか、これじゃあまりにもかわいそうだ。


ならばおれがつくってやろう!強くて頑丈なカラ松を!


この時の俺といえば、自分だけのオモチャを手に入れた子供に過ぎなかったと思う。



「おれ、ワルいコなの?」
「だってそーだろ?おまえが友達をかばうばっかりなら、おまえは友達のぶんまでワルいコなんだ。ずーっとずっとワルモノなのさ!」


ずっとワルモノだって!?それはいやだ!!!



「おれ、どうすればいい?」
「かんたんかんたん!かえすんだよ、カラ松。悪いものはぜーんぶ持ち主に返せばいいのだ!」




そうさ倍返しだ!






それからカラ松は報復を覚えた。

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