ポケモン

□resonance
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【はじめに】

※アニポケのシンジ×シゲルというドマイナーCP

※新無印68話 シゲルさん再登場から膨らんだ妄想話

※シゲルがシンオウリーグのサトシとシンジの試合観てたの最高すぎない?

※直接的な描写はありませんが2人が体の関係

※シゲルが色々考えすぎてます

※シンジのキャラ合ってるかしら…??


大丈夫な方は↓へどうぞ
















「シンオウ地方でポケモンの研究をしてたんじゃ…」


幼馴染の言葉がやたらと鮮明に響き、カメックスのモンスターボールを握る手に少しだけ力が入った。
ボールの中から覗く相棒が不安げに僕を見上げてくるのが申し訳なくて「大丈夫だよ」と目だけで言葉を交わす。そうしてから幼馴染と…幼馴染の新しいバディとの会話に集中した。

「過去の話」なんて何とか平然と受け答えてはみせたが、久々に再会した幼馴染の問いに内心ドキリとしたのが実際のところだった。

(過去なんて言わずいっそ無かった事実にできれば楽なのに)

シンオウ地方…そこでの研究成果は幸い世にも評価されて僕自身も新たな研究観に恵まれた。特殊な環境の地ならでは新種のポケモンとの出会いは勿論、寒地を生き抜く特異性を持つ個体にも巡り会えた。シンオウでの経験は『ポケモンの全てを研究する』という研究者としての己の野心への架け橋、邁進を恐れない精神的な強さも養った。

つまりはドキリとしたのは研究云々の話ではない。

原因はシンオウという単語から思い浮かんだある男の存在だ。そう、咄嗟に自分で言い放った言葉通り過去の話なんてわかってはいるが。今こうも動揺しているのは、彼からの手向けの言葉が未だに心の奥底で疼いているからだ。まるで心臓の内側からその薄い表面を突き破ろうとしているかのように。










「お前は卑怯だ」

吐き気がする。

ふと掛けられた言葉に珍しいなと思った。珍しいのは内容の話ではない。行為後に言葉を交わす機会なんて今までになかったし、何よりいつもは相手が身支度を済ませすぐに部屋を出ていってしまうからだ。重い頭を上げて声のした方に目線を向けると刺すような鋭い視線に捕えられる。


「君から声を掛けてもらえるなんて嬉しいんだけどね。できれば今は労りの言葉がほしいな」


やれやれと重い体をベッドから起こした。正面にある彼の座るソファーまで移動し隣へ腰をかける。その視線に先程までの人を殺められそうな鋭さは無いものの、眉間の皺をよりいっそ深めたその表情はあからさまに不機嫌で思わず笑ってしまう。

もしかして僕とピロートークでもしたくなった?と茶化せば、不快を訴える舌打ちと共に褪せた紫色の髪がサラリと揺れた。自分と違ってストレートなそれがとても綺麗で思わずそっと手を伸ばす。絶対に避けられるか払われると思ったが、相手は此方の行動に気を取られることすら面倒なのか好き勝手に髪を触られながら言葉を続けた。


「…一体なんの冗談だ」

「気に触ったかい?君の髪は綺麗だからつい」

「何を企んでるか知らんが悪ふざけなら今すぐやめろ」

「ふふ、そんな怖い顔しないでくれよ。残念だなもう少し余韻に浸らせてくれてもいいのに」


サラリ、サラリ。髪を梳く手を止めずにいるとついには手首を掴まれる。不愉快だと此方を睨む鋭い視線に、今日此処でこの視線に殺されるのも悪くないなと場違いな感想さえ浮かぶ。そんな僕の考えを知ってか知らずか彼はもう一度舌打ちをし視線を床へと外した。掴まれたままの手首から感じる彼の温度が心地よい…なんて口が裂けても言えやしない。

相手も馬鹿じゃない。流石に僕の言葉遊びの意図もとっくに勘付いているんだろう。なんとなく今日が彼との逢瀬の最後になることはわかっていた。もうこれ以上の先延ばしは無理そうなことも。

(いつからバレていたんだろうな)

6畳半ほどの狭い部屋なのに彼の背後に見える薄暗い灰色の壁と、無機質な四角い窓から見える街明かりが今はやけに遠く感じる。きっとこれから僕は彼の口からこの関係を終える言葉を聞くことになるだろうし、場合によっては酷い罵りも受けるだろう。

何故ならそういう条件だったからだ。『相手に絶対に愛情を持ってはならない』という無論僕からの提案だった。
元々はお互い別の相手へ思いを寄せていて叶わぬ恋の穴埋めという形で今の関係に至ったのだ。そう、彼には想い人がいる。


(それなのに彼に愛情を持ってしまった)


人は彼を冷徹だと評価するが認めた者に対しては無情になり切れないところがある。どちらにせよ彼の無駄を嫌う性質は僕にとって心地よかった。だからこそ人となりを知れば知るほど…奥深くに潜む傷に触れるほど愛おしさを感じた。用無しであればすぐに縁を切られただろうが、ここまで続いたのは相手も多少なりとも此方を求めていたんだと思う。


『祖父が有名人だの七光りだのそんな独善的な評価を理由に自惚れるな、実際周りはそれほど興味無いしお前はお前だろ。馬鹿言ってないで自分の人生に責任持て』


ふと頭の中に浮かんだのは以前僕が周囲との関係で取り繕えなくなった時に彼が言った言葉だ。素っ気ないくせにどこか優しい声だった。

僕にとって彼という存在に惹かれるまでにそれほどの時間は要さなかった。

それは自分が長い間叶わぬ恋をしてきた反動なのか、汚い本心を交わせる唯一の人間が彼だけだからかは解らないが…いずれにしてもこの状況で情を持つなと言われる方が難しい。改めてこの想いを伝えはしなかったが、卑怯にも特段隠す事もしなかった。だから彼へ触れることを躊躇いもしなければ、冗談を盾に簡単に愛だって呟いてきた。ここにきてそれが冗談ではないことに気付いてしまったようだが。

彼は今恐らく此方を酷く軽蔑している筈だ。金輪際もう会わないという話を持ち掛けるつもりでいるだろう。

(まるで死刑台に立つ囚人だな)

未だに掴まれた手首をぼうっと視界に入れながら言葉を待つこの時間は正直怖かった。
目の前の男は今何を考えているんだろうか。


「…君がどう思っているかはわからないが、僕は後悔してないよ。君とこんな関係になったこともさっき髪を撫でたことも」

「…」

「心からの言葉が聞きたいんだ。もう逃げはしないから聞かせてくれないかな」


堪らず相手が口を開く前に言葉を繋げていた。多少しおらしいのはあちらの本心を煽る為…とは言えども後悔していない点は此方の本心であった。彼が欲しかった、でもそれは叶わない。
今更何を言おうが彼の心を揺さぶることはないだろうし…だからと言っちゃなんだがまあ、少しぐらいの告白は許してほしい。

目の前の相手の様子を窺うが相変わらず眉間の皺は深い。表情はよく見えないが、此方の言葉に何かを言おうと一瞬僅かに口を開きすぐに閉じたのを見逃さなかった。何かを迷っているようにも見える…ただ生憎それが何なのかは検討も付かないので再び彼の言葉を待つ時間が流れる。


「…お前は」

「うん?」

「お前は卑怯だな…いつも全部知りながら何も語る気が無い。本当に吐き気がする。こんな無情な奴を愛した自分にも」


掠れた声に思わず短い声が出た。あまりにも嘘みたいな台詞に一瞬にして思考が鈍る。どういうことなんだ…?
少し伏せていたその顔をそっと覗く前に、掴まれていた手首を引かれて相手の胸に顔を埋める体勢になった。予想しなかった事態に僕は彼の意図が全く読めず、反射で見上げた先にあった彼の目を今度こそ捕えた。


「…シン、ジ?」


その表情はいつにもなく空虚で、なのに何故か熱っぽい。ドクンと心臓が大きく音を立てた。


「どう、したんだよ。今更そんな…君らしくもない」

「お前を愛していた」

「何を、」

「俺はお前を愛していた」


シゲル…お前と違って。

抱き締められる腕の力が強くなったがそれもほんの一瞬ですぐに身体を離される。肩口から離れた彼の端正な顔が露わになるが、その表情からはもう何も読み取れずにいた。



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