ポケモン

□多忙な告白
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「好きだレッド!俺と付き合え!」
「ごめんなさい」


即座に返ってきたのは毎度お馴染み、お断りの言葉だった。

58戦58敗。しかもコールド負け。

正直疲れたが、その程度で諦められる程俺の気持ちは軽くない。
それどころかどんどん膨張して、もう引き返せないところまで来てしまっている。


「あのなぁ…いくら何でも即答はないだろ、結構傷付くんだぜ?」
「諦めればいい」
「か、簡単に言ってくれるな…つかそれが出来たらとっくにやってるっつーの!
大体俺、何回お前に振られたと思ってるんだ。58回だぜ、58回!」


どうだ参ったか!なんて威張ったように叫ぶ俺を、レッドは相変わらずの無表情で一瞥した後、呑気に緑茶を啜った。

思わずガクリと体制を崩す。

想定内ではあった為容易に持ち直す事は出来たものの、少しくらい緊張感を味わって貰わないとこちらとしても面白くない。


「…なぁレッ」
「このお茶美味しい」


気の抜けた台詞に言葉を遮られ、もう嫌だと深くうなだれた。
このような余りにも配慮のない態度には散々慣らされたつもりだけど、まだ完全ではない。
何が「このお茶美味しい」だ。どうでもいいつーの。


「お前さぁ…もっと他に言うことあるだろーよ普通…」


相手には解らないよう小さく息を吐き出す、しかし心の痛みは取れない。当たり前だ、俺の愛はそれ程簡単ではない。
あっけらかんには振る舞うが傷付いているのは事実、所詮自分に嘘は付けないのだ。


「…あ」
「なんだよ」
「多分、57回」
「あ?」
「一番最初、僕が返事する前に君逃げたから、57回」


そう言ってレッドは再び緑茶を啜った。
ああ…こいつはこんな奴だ。普段は呆れる程物事に無頓着なくせに、妙なところで細かい。
見ていないようで実はちゃんと見ているのだ。但し興味のある事に限り、だが。

(…あれ?)

思わず顔を上げるが、相手は相変わらず手元の緑茶に夢中である。
その様子をまじまじと凝視していると、ふいに視線が合った。


「なに?」
「あ、いや…よく覚えてるなって…」
「悪い?」
「わ、悪いわけねぇよ…!」


むしろ嬉しい。
なんて言えるはずもなく、すっかり赤くなってしまった顔を隠すように俯いた。

どうしよう、とんでもなく恥ずかしい。


「…顔赤い」
「うっ…うるせーな!お前が悪いんだ!不意打ちなんて卑怯だ…!!」
「君、恥ずかしがる基準がおかしい」


その言葉に更に恥ずかしくなり威嚇する犬のように唸りながら縮こまっていると、ふと隣に人の気配がした。
まさかと思い少し顔をずらし気配のする方へ視線を向けると、案の定見慣れた無表情があってドキリと胸が高鳴った。


「ずっと、頑張れ」
「…はぁ?」
「諦めない限り、いつかは報われるから」



END

なんだ、ただの両想いか。
レッドさんはグリーンさんをからかうのがお好きなようです。

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