ポケモン

□凶器
1ページ/1ページ


憎らしい。

ドクドクと脈打つ腕の感覚が。
爪を食い込ませても引き裂けず、踏み付けても壊せやしないこの温もりが。
忌ま忌ましくて死にたくなる。



「…頭大丈夫?」


心底怪訝した様子のレッドを余所に、俺は妖しげに光る鋭利なそれを手に取った。
そして媚びるように人差し指をそこへ押し当て滑らせると、当然の如く見慣れた赤色が滲んだ。

何時ものようにそれを気が済むまで眺めていた際、横でレッドが何かを呟いたが、特に気にする事なく次に中指を鋭利な部分へ押し当てる。

しかしそれは阻まれた。


「もう、止めた方がいい…」


白い腕と抑揚の無い声が俺の動きを封じ込める。
何を今更…と嘲笑うが、俺を封じるそれらは解かれず手にあったナイフは抜き取られ、数秒間空中を舞った後冷たい床へと吸い込まれていった。

カラン、汚れのない金属音が部屋に響き渡る。


「…ちっ」

その音を聞きながら、俺を拘束する腕を勢い良く振り払って転げ落ちたナイフに駆け寄りそっと拾い上げた。
カーテンから差し込む光を受け妖艶な光を醸し出す金属部を一撫でした後、その場にしゃがみ込み軽く腕に刃を立てる。

ピリッと薄い皮が裂ける感触がした。


「…逃げるなら今しかないぜ?」
「…、」


挑発するような視線を送り付けるといつもの無表情が微かに歪んだ気がした。

馬鹿な奴、そんな顔するくらいなら逃げればいいのに。

そんな事を考えながら再び自分の腕へと視線を戻すと、先程から刃を当てっぱなしだった為既に腕からは血が滲み出ていた。
暫くの間それをうっとりと見つめているのも悪くはないが、今の俺にそんな余裕はない。
それに、こんな生温い痛みだけでは物足りないのも事実で、僅かに痛む傷口がまだかまだかと急かしてくる。


「……それ、切り落とすの?」


ふと、ぽつりと寂しげな声が響いた。
初めて聞くその声音が余りにも情けなかったので好奇心で返ってみると、想像よりも近くにレッドの顔があったので思わず間抜けな声を上げてしまった。

「な、なんだよ…」

なんとなくその距離が怖くなり、後退ろうと床に手を付こうとするがそれよりも先にレッドの手が俺の手首を掴みその勢いのまま床に押し倒された。

突然すぎて受け身の体制すらとれなかった為に、背中に激痛が走った。


「いってぇな…」
「切り落とすのはもっと痛い」


低く吐き出された声にが俺の耳へズシリと落ちる。身体が強張り、背中には嫌な汗が伝った。
恐る恐る視線を合わせた先には赤い瞳が鋭い光を宿しこちらを見据えており、その歪みのない真っ直ぐ過ぎる視線に情けなくも俺は首を動かす事すら出来なくなっていた。


「はっ…い、今更知ったことかよ…お前には関係ねぇだろうが」
「関係あるよ。だから、僕の腕を切ればいい」
「…、は?」



突然発せられた意味不明な言葉に一瞬自分の耳を疑った。どういう意味だと聞き返したが、返事は返ってこない。

その間にも拘束されていた腕が解放され、ますますわけが解らなくなりただじっと相手の行動を見ていることしか出来なくなっていた。


「…ちゃんと見ててね」


少しだけ緊張した様子でそう告げた後、レッドは俺の手の中で緩く握られていたナイフに視線を向けゆっくりと手を伸ばしそれを抜き取った。

一瞬殺されるのでは…とも思ったが、どうやらその気は無いらしい。

ナイフの行方を目で追っていると、それはあるところでぴたりと静止した。
ナイフの刃が見慣れた白い腕にに吸い付く。その瞬間嫌な想像が脳裏を過ぎった。
何する気だと腕に縋り付くが、その腕はびくともしない。



「お、おいレッ…!!」


そして次の瞬間、ナイフは赤に染まった。ドクン、不穏な音が身体中に響く。

一瞬何が起こったのか理解出来なかった、そ
れ程衝撃的で、半分泣き出しそうになりながら血の溢れ出す腕を夢中で掴んだ。

カラン、汚れのない金属音が部屋に響き渡る。


「…痛い」
「ばっ!ばか当たり前だろ…!!何やってんだっ、なんでこんな…痛いのに…」


応急処置をすべくポケットからハンカチを取り出し、焦りながらも何とかハンカチを裂く。
ガタガタと震える手で傷口に触れようとするが、触れる前に勢いよく振り払われてしまった。

思わずえっと相手の顔を見ると、いつもの無表情はそこには無く、代わりに満足そうな表情で微笑む見慣れない表情があった。


「な、なに…」
「僕は君よりずっと痛かった。これでわかったでしょ?」


俺の耳元でそう呟いたと共に、そいつは部屋から出て行った。


無造作に床へと放り投げたナイフは、もう既に光を失っていた。

END


病んでるのはグリーン氏だけではなかったっていう話…わーわーわーわーよくわからん話になってしまった´`;

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ