ポケモン

□正直者の告白
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気付いてしまったからにはもう遅い。
生憎俺には剥き出しになってしまった愛情を見過ごせるほどの寛容さはない。余裕も無い。

だからこそ伝えるしかないのだ。


「あ、あのさレッド…」
「なに?」


太陽の香り漂う毛布を下に、男二人がベットの上で何故か正座で向き合っている。
端から見れば奇妙でしかない光景だろうが、俺にとってこの場は神の領域にも優る神聖な場だ。


「え…えと、今日はいい天気だな、なんて…」
「用がないなら帰る」
「うわぁあ待て待て…!あるから!今から言うから帰るな!!」


本気で帰ろうしているレッドをどうにか帰らせないようと必死に宥めたのだが、そんな俺を一瞥した後レッドは床へと足を延ばした。

ここで帰らせるわけにはいかない!そう思うのと同時に、なんとかこの場に留まらせるべく半分意地になりがら即座に目の前の腰に抱き着いた。
そして、渾身の力を加え相手をベッドへと引き戻す。


「う、おぉっ?!」
「…!…、何やってんの…」


予告も無しに加えられた膨大な力にレッドの身体は面白い程従順に従い、そのままガクンとベットに腰を沈めた。
すると勿論の事、そのレッドの腰に纏わり付いていた俺自信も体制を崩し、画的に何とも微妙な光景となってしまう。

自分の情けなさに泣きたくなった。


「……」
「ご、ごめ…」


後先考えずに行動を起こすのは俺の得意分野、またやってしまったと後悔するが時既に遅し。
怒っているのか呆れているのか、
無言で座り込むレッドの表情を見るのが怖かったので(多分いつも通りの無表情だとは思うのだが)
もう一度ごめんと呟きながら、ベットに両手を付き身体を起こそうとした。


「…とりゃ」
「へっちょわあぁ?!」


しかしそれは阻止された。

間抜けな掛け声と共に背中に力が加えられ、俺の身体は再びベットへ沈んだ。
あまりにも突然だった為に妙な奇声を上げてしまうが、今は気にしている時ではない。
何するんだ!と抗議の声を上げたのだが反応は無く、代わりにぐいぐいと俺の頭を自分の膝に押し付けてきた。


「なっ…ななな何す…」
「で、用ってなに」
「おっおまえ、この状態でそれはないだろ普通っ…」


相変わらず意味が解らない奴だと呆れたが、俺はこの状況を有効活用する事にした。

相手の顔が見えない分色々とごまかしが効く、この思いを伝えるには丁度いい場なのかもしれない…まぁ要するに開き直ったのだ。
直に伝わってくる体温には少々戸惑ったが、そんな戸惑いも隠して俺は静かに口を開いた。


「ま…まどろっこしいの、嫌い、だ!」
「うん」
「だ、だから…単刀直入に言うからな…!」



どうぞ?と相変わらず感情の読めない声が聞こえたのを確認した後、小さく深呼吸した。ああどうしよう、壊れそうな程にうごめく心臓が煩い。
しかし俺も男だ。決める時は格好良く決めたい。
本心では、この恥ずかしさ溢れる体制をいい加減どうにかしたいと思ってはいたのだが、もうどう足掻いてもの変えられそうになかった為、潔く諦めることにした。

でもせめて、この喧しい音だけは悟られたくない。
その思いを込め小さく身じろいだのだが、当然の如くレッドの腕がそれを許さなかった。


「うぐっ…」
「いいから続けて」


いつも通りの抑揚のない声が躊躇する俺を促す。
開き直ってみたものの、人肌を感じながら思いを告げるのは、やっぱり恥ずかしい。
それが好きな人のものとなると尚更だ。だからといって今更派手に抵抗するのも、何となく気まずい。
やはりここは意を決するしかないらしい。


「えと、その、なんていうか、おれな、気持ち悪いかもしれないけど……あ、絶対逃げるなよ!?」
「逃げない、大丈夫」


何が大丈夫なんだと心の中で毒づきながら、俺はもう一度深呼吸した。

顔中に熱が集まり今にも噴火しそうだけれど、今言わなきゃ多分後悔する…いや、絶対後悔する。
何故ならレッドは常にマサラにいるわけじゃない。どうせ直ぐに何処かへと旅立ってしまうだろう、俺に黙って。
だから今回を逃したら終わり…このくらいの気持ちでいかなくちゃ、こんな機会はそうそうあるわけじゃない。
なんて、自己暗示を掛けながら俺は再び意を決した。


「あ…おれ…俺な!お、おおおお前のこと……すっ…すきっ…になっちまった、みたい…なんだ、」
「……あー、うん」
「べ、別にだからどうってわけじゃねぇんだけど…!なんとなく、言わずにはいられなかったっていうか、なんていうか…」


恥ずかしさで死にそうになりながらも、必死に喉から声を絞り出した。
しかし、これは相当恥ずかしい。よく考えてみれば人に告白するのは初めてだ。こんなにもドキドキするものなのか。

そういや人生で心臓が鼓動する回数は決まっているって聞いた事があるけど、おれ大丈夫かな?
皆より早く死んだりしないだろうか?

なんて、緊張し過ぎているせいか、思考が妙なところにまで巡ってしまう。
ほてっていた身体からは熱が逃げ出し、徐々に冷静になりつつある自分がいた。



(……あれ?)

しかし、あるところでふと現実に戻される。頭を押さえ付けていた力が極端に弱まったのだ。
解放された事に安堵する気持ちと、引かれてしまっただろうかと落胆する気持ちとが混ざり合い、何とも奇妙な感覚に陥る。
しかし同時に、レッドの様子が気になった。

今どんな表情をしているのだろう…やはり引いているだろうか?或いは普段通りの無表情かもしれない。
五分の恐れと五分の好奇心を抱きながら、今度こそ起き上がろうとした。


「…!」
「ふがっ…!」


しかし、それは再び阻止された。

ゆっくりとベッドに手を付き今まさに起き上がろうとした瞬間、物凄い勢いで後頭部を掴まれ今回は膝ではなくベッドへと顔を押し付けられたのだ。
全く油断していた俺は何一つとして抵抗らしい抵抗が出来ず、そのせいで俺の顔面は力のままにベッドへとダイブした。


「いっ…、おお前なぁっ!人が真剣に話そうとしてんのにさっきから何なんだよ!」
「……」


嘗めているとしか思えないその態度に無性に腹がたち、また悲しくなった。
裏切られた気分だ…なんて、傲慢なのはわかってる。

でも仕方ないだろ。

俺はこんなにも真剣なんだ…それなのにさっきからこいつときたら、まるで玩具のように俺を扱いやがる。


「ちくしょうバカにしやがってっ…いい加減に…」


この気持ちを紛らわす為にも、俺は後頭部に置かれていた腕を勢いよく振り払った。
そして漸く解放された頭を上げ、キッと睨み付けた。


「…って、ぇ…、は、はぁ…?」
「…なに、」


しかし俺の目に映ったのは、予想外の光景だった。
いつもは常に何処か遠くを見ている赤い目はしっかりと俺を見据えており、そのくせ何故かとても情けない顔をしている。
その頬が若干赤いのは、多分気のせいではない。
あまりにも予想外過ぎた為に声が出ず、暫く瞬きもせずにポカーンと相手を見ていると、ふいに目が合った。
しかし直ぐさま逸らされる。
その動作に俺の心には僅かな期待が生まれ、全神経を支配した。


「お前…なにその顔…」


そんな心境の中、やっと出た言葉といったら、相手を気遣うわけでも馬鹿にするわけでなく、ただ本当に素直な言葉だった。
我ながら阿呆な奴だと心の中で自分を嘲笑っていると案の定、目の前のそいつは呆れたように深く息を吐き出した。


「……だから嫌だったんだ」


その言葉に思わず身体が強張る。浮上していた僅かな期待は見事に砕け散った。
それはやはり、そういう意味なんだろうか。あぁヤバイ、泣きそうだ。
いつから俺の心はこんなにま軟弱になってしまったのだろうか。


「いやって、なにがだよ…」


極力態度には示さないようにしていたつもりだが、珍しくナーバスまっしぐらな俺の心境にレッドは気付いたらしい。
普段よりほんの少しだけ柔らかな声音で「ばかだなぁ」と呟いた後、子供をあやすような手つきで俺の頭を撫でた。


「グリーンはわかりやすいんだよ」



END
レッドさん照れちゃった


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